御池より燧ヶ岳を越えて下田代へ

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登山

■コースタイム
御池=0:55=広沢田代=0:45=熊沢田代=1:05=爼嵓=0:20=柴安嵓=0:20=分岐点=2:00=見晴新道登山口=0:10=下田代十字路【total 5:35】


 8月8日午前7時、初めての尾瀬へ出発。八日市ICから名神高速に乗り、北陸自動車道を上越ICで降りる。そこから R253とR17で小出へ。これが関西方面からの最短コースなのである。あとはトンネルだらけの奥只見シルバーラインを抜けてR352の気の遠くなりそうなグネグネ道を行く。途中で日も暮れ真っ暗になったが、人家が全くなく恐ろしくなるような道だ。午後8時、13時間の長旅の後にようやく御池の駐車場にたどり着いた。まさに「はるかな尾瀬」である。土曜の夜ということで駐車場が満車のことが心配されたが、拍子抜けするくらいにガラガラで車は疎らにしか停まっていなかった。何もすることはないので車の中で仮眠をとるが、寒さで何度も目を覚ます。奥只見湖付近では雨も降っていて翌日の天気は絶望的に思われたが、夜半過ぎからは満月がこうこうと輝き、何と星まで出ていた。よほど日頃の行いが良かったのだろうか。翌朝4時半頃には目が覚めて、すでに朝焼けが始まっていた。少し雲が出てきたが、一時的なものだろう。周りではもうたくさんの人が登山の仕度をしている。朝食を済ませて念のため電話で天気予報を確認すると、晴れ時々曇り、降水確率は0%とのこと。6時になって昨夜よりは車の数が増えているように思うが、それでもまだ3分の1も埋まっていないであろう。大混雑を予想していただけに、意外に少ないので驚いた。午前6時10分、駐車場の一番奥から登山道に入る。

 登山口には登山者数をカウントするためのセンサーがあり、右側通行するようになっている。朝の空気が清々しい。他に登山者はなく、実に静かだ。樹林の中を200mほど行くと燧裏林道との分岐があり、左に道をとる。登山道に入るといきなりグチョグチョのぬかるみ道となる。昨日まで雨が降っていたのだからかなりひどいものだ。できるだけぬかるみを通らないように端の方を選んで通るが、それでもたちまち靴がドロドロになってしまう。だんだん勾配がきつくなり、さらにぬかるみに悪戦苦闘するため余計に時間がかかる。ぬかるみがやっと終わったかと思えば、今度は岩礫の多い急坂でまた歩きにくい。途中、ゴミを拾っている監視員の方がおられた。ここにもゴミを捨てる不届者がいるのかと思うと悲しくなる。少し勾配がゆるくなって木道が現れ、広沢田代に着いたのかと期待するが、木道はすぐに終わりまたぬかるみ道となる。油断していたら深みにはまり、ついに足首まで潜ってしまった。ぬかるみ道がしばらく続いた後、ようやく本格的な木道が現れて広沢田代に着いた。木道は実にありがたい。休憩スペースが作ってあるのでそこにザックを置いて初めて写真を撮る。花はあまりないが、白いイワショウブの花が目立つ。前の池塘が朝日に輝いて美しい。


広沢田代

 フィルム交換等で25分と少々長めの休憩をとった後、熊沢田代を目指して出発する。木道が途切れるとまたぬかるみ道となり、しかも結構な急登である。ぬかるみに辟易としながら登ること40分ほどで1986mのピークに着いた。ここまで来るとようやく燧ヶ岳の山頂が姿を現す。ここですでに約500m登ってきたわけだから山頂まではあと約350mだ。しかし山頂はまだずいぶん遠く見える。ピークからは木道の両側に池塘を一つずつ配した熊沢田代の全容が見える。そこからゆるやかに下っていき、池塘のあるところにはベンチが設けられている。ここでまた写真を撮って小休止。西側には平ヶ岳が見えているはずだが、山頂はガスに覆われてわからない。また東側には帝釈山のあたりがよく見える。時々やってくる登山者は皆ここで休んでいく。


熊沢田代と燧ヶ岳山頂

 15分の休憩の後、いよいよ最後の大詰めにとりかかる。しばらく木道が続いた後ジグザグの登りとなり、迷わないようにロープが張られているところがある。ここまで来るともうぬかるみはないが、その代わり岩礫が多くなり、やはり歩きにくいことには違いない。時々大きな岩を一気に登らなければならない場所があり、苦労する。樹林帯を抜けると石のゴロゴロしたガレ場を一直線に登るところがある。ここは勾配もきつく、一番しんどい部分である。そこをやっと登り切ると眼下に熊沢田代の湿原を見下ろすようになる。実に素晴らしい眺めだ。ちょっと怖いガレ場を横切り、山腹をトラバース気味に登っていく。行けども行けどもなかなか頂上は近づいてこない。標高差350mというのは結構なものである。やがて笹原の中を行くようになると頂上が近づいた雰囲気になり、小さな平坦地に出てやっと爼嵓のピークが間近に見えた。ここまで来るとあとひと登りで山頂である。午前9時35分、爼嵓に登頂した。


登山者でにぎわう爼嵓

 御池からの登山道ではあまり人に会わなかったが、狭い山頂にはずいぶんたくさんの人がひしめき合っている。眼下には尾瀬沼、そして柴安嵓に半分隠れた尾瀬ヶ原が見える。このときはまだガスが多く、柴安嵓は出たり隠れたりでなかなか姿を見せてくれなかった。こうして見るとかなり距離があるように見えるが、実際は15分程度で行けるらしい。眼下に見える少しはげた広場はミノブチ岳だろう。人がたくさんいるのが見える。やはり長英新道から登ってくる人が最も多いようで、ミノブチ岳の方からは続々と人が登ってくるのが見える。尾瀬沼の向こうには一目でわかる男体山や日光連山が見えていた。ここは狭くて人が多いので、昼食は柴安嵓に着いてからにしよう。25分の滞在の後、10時ちょうどに出発する。


爼嵓より柴安嵓を望む

 山頂からは「ヌマ」、「ハラ」と岩に書かれたペンキの標識があり、右の「ハラ」の方へ下っていく。半分くらい下ってようやくガスが晴れ、柴安嵓の全容を見ることができた。ここで写真を撮っておく。下り切った鞍部は完全に平坦な広場となっている。そこから再び登り返すこと約 10分で最高峰の柴安嵓に着いた。山頂には「燧ヶ岳山頂」と刻まれた真新しい石柱が立っていた。ここは爼嵓よりは広く、ゆっくりと休憩できる。ちょうどよい時間なのでここで昼食にする。昼食をとっている間にガスがだんだん晴れてきて、ついに至仏山の頭も姿を現した。眼下には広大な尾瀬ヶ原と尾瀬沼が同時に見える。何と素晴らしい展望台だろう。初めて見る尾瀬が何と燧ヶ岳の山頂からだったのである。他のどんなコースから入るよりも最も感慨深いものになるに違いない。今日泊まることになっている下田代の山小屋群、そこから山ノ鼻に向かってまっすぐに伸びる木道、白く輝く池塘群、それらを見守るようにして対峙する至仏山・・・何もかも地図の通りに見える。至仏山の後ろには三角形の笠ヶ岳、さらにその向こうには武尊山がくっきり。その左はるか遠くに見えている形のよい山は皇海山だろうか。この辺の山はまったく馴染みがないだけに山座同定はなかなかはかどらない。ずっとガスに覆われてなかなか姿を見せてくれなかった平ヶ岳だが、11時半を過ぎてようやく完全にガスが晴れて姿を現してくれた。その名の通り、平らな山頂が美しい。その向こうには巻機山、さらに遠く谷川岳まで越後の名だたる名山が勢揃いした。天気はますます良くなり、まだ時間も早いので1時間半も大休止してしまった。


尾瀬ヶ原の全容


尾瀬沼を見下ろす


平ヶ岳を望む

 素晴らしい展望を満喫し、11時55分名残惜しい山頂を後にする。見晴新道方面への下りは岩礫の多い大変な急勾配で、慎重を要する。すれ違った人が何人かいたが、これを逆に登るのはかなり骨が折れるだろう。途中、ハクサンフウロやオヤマリンドウが咲いていたので写真を撮った。温泉小屋道との分岐まで距離にしてわずか300mなのだが、写真を撮っていたとはいえ20分を要した。分岐点を左にとって見晴新道に入る。またものすごい急坂を下り、みるみるうちに山頂が高くなっていく。この辺で数人に出会ってからは全くすれ違う人もいなくなった。あまり人に会わないので道を間違えたのかと思うくらいだ。さすがにこの時間から登ってくる人はいないのだろう。やがて道は水のない沢のようなところを下るようになる。樹林帯に入って展望は全くない。まだ勾配はかなりきつい。下るほど少しずつ勾配はゆるくなってくるが、あまりにも単調でいい加減嫌になってくる。これを逆に登るのはもっとつらいだろう。午後になると天候が悪化するのが普通だが、この日は逆に午後からどんどん良くなってきて暑くてたまらない。少しくらい曇ってくれればいいのにと思うのは贅沢だろうか。おまけに水の残量が少なく、ついに水が底をついてしまった。完全な水切れ状態である。やはり真夏に水1リットルではとても足りなかった。あとはもう細かいことは覚えていない。とにかく早く山小屋に着いて水を飲みたいことだけを考えて延々と続く下り坂を淡々と歩いていた。やがて道は中央に水が流れるぬかるみ道となり、急ぐ足にブレーキをかける。そんなぬかるみ道が20~30分続いただろうか、ようやくブナの林の中の木道に出た。これが尾瀬ヶ原と尾瀬沼を結ぶメインルートだ。しかしすれ違う人も少なく、思ったより静かな道だった。ゆるい下り坂を10分ほど歩いて小屋が建ち並ぶ見晴に到着した。時間は午後2時30分。弥四郎清水で水をガブ飲みしたことは言うまでもない。


見晴より燧ヶ岳を望む

 今夜の宿は第二長蔵小屋。4時までに入ってくれと言われていたのでとりあえず受付を済ませる。疲れて部屋で横になっていたが、まだ時間も早いので夕食まで散歩に行ってみる。初めて足を踏み入れる尾瀬ヶ原。ニッコウキスゲはもう終わって実になっているが、今は紫色のサワギキョウや黄色い菊のような花が盛りのようだ。正面には至仏山のたおやかな姿が美しい。そして後ろを振り返れば燧ヶ岳の雄姿。あの山を越えてきたのかと思うと感慨深い。風呂は男女交替制になっていて4時半から入浴時間になっている。石鹸は使えないので湯船につかるだけだが、大汗をかいただけに風呂に入れるのはありがたい。そして5時からは夕食タイム。和風でご飯と味噌汁はおかわり自由、山小屋としてはかなり良い部類に入るのだろう。6時になってから今度は夕暮れを撮りに行く。こういうのは山小屋に泊まらないとできないことだ。山の端に日が沈んで山の陰が次第に湿原を覆い尽くしていく。静かな一日の終わりの風景。そんな情景をじっと見守っていた。しかしこの日は期待したほど赤くは染まらなかった。小屋に戻ってみるとそれまでは6畳部屋に3人だけでラッキーと思っていたのに、団体が到着していて6人詰め込まれた。6時を過ぎてから到着するなんてルール違反じゃないの。ちゃんと予約はしてるんだろうか。その後談話室を占領してうるさいミーティングが始まった。しかしそんな騒ぎをよそに、昨夜の睡眠不足解消のため、8時にはさっさと寝てしまったのであった。

片雲の風に誘われて