1994.8.18 佐渡夏紀行(3日目)

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自転車

実走日:1994年8月18日(木)
コース:尖閣湾~平根崎~岩谷口

 三日目も朝から快晴だ。今日の走行は外海府YHまでの約30kmなので中休みの日である。どう考えても時間を持て余してしまうので適当に時間稼ぎをしながら行かなければならない。YHを9時前に出発し、まず最初の時間稼ぎで尖閣湾の観光遊覧船に乗る。乗り場はYHから1kmほど南に戻った達者にあり、遊覧船と透視船があるが、遊覧船の方に乗る。遊覧船は30分毎に運航しており、20分ほど待って出航。座席は全て埋まっており満員である。遊覧船は荒々しい断崖の続く尖閣湾を揚島まで往復し、所要時間は30分。ガイド付きで見どころでは入り江に入ってゆっくりと見せてくれる。

 遊覧船を降りてしばらく休憩してから出発するが、時間はまだ10時半だ。下ってきた坂をまた上り直す。尖閣湾の断崖の上は田圃になっていて、豪壮な断崖とは対照的にほぼ平らで実にのどかな風景である。台地状の変わった地形だ。この辺でロードレーサーとすれ違い、ピースサインを交わす。揚島を過ぎると下り坂となり、再び海岸に出て白島にある休憩所でしばらく休憩する。まだ5kmくらいしか走っていないのに実にのんびりしている。

 白島からもう少し行くと平根崎に着く。ここもまた長い上りがある。10万分の1の道路地図では等高線の間隔が100mなのでほとんど平坦なように見えるが、実際は100mに満たないアップダウンが多い。だいたい「~崎」と名の付く所は必ず上りがあると考えて間違いない。これも5万図で調べて来なかったためにわからなかったことである。プランニングの時は5万図で綿密に調べる必要があることを痛感した。

平根崎

 平根崎には珍しい波蝕甌穴(おうけつ)群があり、波によって洗われた無数の丸い穴が見える。またこの海岸は、大きな岩が斜めに張り出した実にダイナミックな景観を見せる。ここで同宿のホステラーに出会った。この辺は一度バスを降りると次のバスは2時間ほど待たないと来ないそうだ。バスの本数が少ない佐渡では断然自転車の方が速い。
 
 彼も外海府YHまで行くそうなので、また後で会おうと言って正午前に平根崎を出発する。平根崎を過ぎれば下りになるものと思っていたら、なおもだらだらと上りが続く。かなり高い所まで上らされて、はるか下に海を見下ろす。苦労した分景色は素晴らしい。海の色はまさに紺碧と呼ぶにふさわしい青さだ。南片辺、北片辺の集落でやっと平地に下りる。北片辺には藻浦崎公園があり、暇つぶしに立ち寄る。周囲には赤茶けた岩礁が多い。公園内には遊歩道、休憩所、更衣室、シャワーなどがあり、ありがたいことに水道もあるのでボトルの水を補給しておく。

藻浦崎

 藻浦崎公園でしばらく休憩して再出発する。ここから先は珍しく平坦な道が長く続く。こんな道ばかりだったらどんなに楽なことだろうと思う。さらに少し追い風気味できわめて快調だ。順調に距離を稼ぎ、5kmほどで入崎の海水浴場に着く。広い海水浴場だが人は疎らである。ここに限らず佐渡の海水浴場はどこも混雑とは無縁である。何と言っても周りは全部海なのだから。他に食事ができそうな店はなさそうなので、海水浴場の食堂で昼食をとる。

 入崎を過ぎても平坦で快適な道が7kmくらい続く。この辺から先は道幅も狭くなり、どこか寂しい感じのする荒涼とした風景に変わってゆく。記憶がやや怪しいが、このあたりからはるか遠方に大野亀がちらっと見えたと思う。まだ追い風気味なので非常に快調である。あまり早く着いてもしかたないのだが、この快適さを味わいながら30km/h前後で駆け抜ける。このままいつまでも走り続けたいと思うような快適な道であった。

 入崎から7kmほど先の大倉で再びアップダウンが現れる。短いトンネルを抜けると燈台の立つ関岬の断崖が目の前に迫る。この草原に覆われた断崖に向かって少し上って行き、禿の高トンネルで断崖の向こう側に抜ける。長さ400mくらいの狭いトンネルである。坂を下って関の集落に出ると地図には載っていない真新しいトンネルがある。最近道が付け替えられたようで、この辺だけ道幅が広くなっている。

 関から少し坂を上ると「寒戸崎」の標識があったので自転車を置いてちょっと歩いて行ってみる。入口には朽ちかけた小さな鳥居がいくつもある。2~3分も歩くと人の気配のない小さな神社があり、そこで道が終わっている。なぜか一升瓶が多数散乱しているのが気になる。周りは鬱蒼とした林の中で全く人気がなく、何となく不気味である。また足元が妙に涼しい。この冷たい空気はいったいどこから流れてくるものなのだろうか。

 じっとしているととても涼しくて気持ちいいが、これ以上行けそうにないので引き返す。後でガイドブックを読んでわかったことだが、「寒戸崎」という名前はこの冷気から来ているらしい。

 寒戸崎を過ぎるとまたアップダウンにうんざりし、2kmほどで五十浦の集落に着く。平根崎で会ったホステラーがまたバスを待っている。しかしYHのある岩谷口まではあと1kmほどなので、歩いた方が早いのではないだろうか。

 五十浦からは集落の切れ目がなく、そのまま岩谷口に到着する。時間はまだ午後3時前なので、海岸で適当に暇をつぶして3時半頃外海府YHで受付を済ませ、部屋に入る。建物は古いが、何とエアコンがある。全く期待していなかっただけに意外だった。冷房の効いた部屋で昼寝する。今日はやっと汗をかかずに寝られそうだ。

 YHのすぐ前は海水浴場になっているが、人影は疎らである。砂浜の後ろには断崖が立ちはだかっていて、跳坂と呼ばれる稲妻状の急坂が見える。夕暮れが近づくにつれてわずかな家々が赤く染まってゆく。過ぎ去った遠い日を思い出させるような最果ての風景。

 午後6時半頃、今日もきれいな夕日が見られたが、水平線近くに雲があって沈むところまでは見えなかった。今日の宿泊者は3人だけ。しかも3人とも前日尖閣荘YHに泊まっていた。夜、今後の予定を検討する。最初の予定では島を完全一周して再び小木港から帰る予定だったが、この暑さとアップダウンの多さではどうも無理になってきた。せっかく来たのだから完全一周をしたいという気持ちもあるが、地図を見ても姫崎から先の南海岸はかなりアップダウンが多そうだし、特に見どころはない。それにデイパック一個とはいえ、荷物を背負って走るのがいい加減苦痛になってきている。

 時刻表を調べると、明日遅くとも両津発18時40分のフェリーに乗れば新潟からの夜行で帰れることがわかった。結局苦しい思いばかり残ってもつまらないと思い、完全一周はあきらめることにし、予約していたYH風島館にキャンセルの電話を入れる。

 夜遅くなって激しい雷雨となった。おかげで皮肉なことにエアコンがいらないくらい涼しい。夕立だからどうせすぐ上がるだろうと思っていたのだが、翌日は意外な展開になるのであった。

走行距離 走行時間 平均速度 最高速度 最高地点 最大標高差
33.01km 1:39:27 19.9km/h 49.0km/h 50m
南片辺
50m
片雲の風に誘われて