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1996.5.2 四万十源流の旅

投稿日:1996 年 5 月 2 日 更新日:

実走日:1996年5月2日(木)
コース:窪川~大野見~船戸~新田~大古味~下津井~大正~窪川

 2年前の5月、窪川から中村まで四万十川の下流に向かって走ったが、今回は逆に上流の方に向かって走りたい。本当はこのコースは5月1日に走る予定だったが、雨のため一日延期になり、奇しくも2年前と同じ5月2日となった。車があるため周回コースしかとれないのだが、地図でおおよその距離を計算しようとすると、地図によってずいぶん距離が違う。四万十川沿いはカーブが多いため、見かけの直線距離に比べて非常に距離が長い。いろいろな地図から距離を計算すると、おおよそ120kmと見積もられた。100kmを越える長距離ツーリングは今まで2回しか行ったことがなく、琵琶湖一周の150kmに次ぐ長さである。最近こんな長距離を走ったことがないので非常に不安があるが、連泊で時間はたっぷりあるので何とかなるだろうということで、やや無理なコース取りとなった。

 午前8時、窪川の岩本寺YHを出発する。ここはすっかり定宿になってしまっている。まだ空は曇っているが、天気予報によると次第に晴れてくるということなので気にしない。窪川駅前を通り、短いトンネルを抜けると左折して県道19号線に入る。県道に入った途端、時間制限通行止の看板があり一瞬いやな予感がしたが、よく見ると時間は8時50分からということなのでまだ大丈夫だ。しかし看板に書いてあった東川角というところまで来ると時間前なのにもう工事が始まっていて、地元のおばさんが交通整理をしている。一方通行で少し待たされてから工事現場を通過する。

 東川角を過ぎて、しばらく四万十川に沿った水田地帯を走る。やはり鯉のぼりがたくさん揚がっている。カエルの声がにぎやかである。次第に雲が晴れてきて青空がのぞいた。やがて道幅が狭くなり、上秋丸を過ぎると大野見村に入る。その少し先の橋の上で初めて写真を撮る。

野老野橋にて

 竹原を過ぎると深い木立の中の雰囲気のいい道となり、芹田からは初めて上りらしい上りになる。ピークに着くと眺めが良く、四万十川が蛇行する様子を見下ろせる。ここでも写真を撮る。

芹田付近からの四万十川

坂を下って槙野々の集落に着くと沈下橋がある。四万十川には沈下橋が本当によく似合う。その飾り気のない橋は全く威圧感を感じさせず、自然に風景の中に溶け込んでいる。

槙野々の沈下橋

 さらに行くと大野見村の役場がある吉野に着く。さすがにこの辺は少しだけにぎやかである。ここで七子峠への道と分岐し、県道19号線は左折して船戸へ向かう。その交差点で道を確かめていたライダー二人と挨拶を交わす。2kmほど行った久万秋で「久万秋の水」という湧き水を見つけ立ち止まる。ボトルの水がぬるくなってきたので入れ換えておく。この水もまた四万十川に注いでいるのだ。四万十川の美しさはこの森林の保水力によって支えられていることを改めて実感する。この辺まで来ると川幅もずいぶん狭くなっている。

久万秋付近の四万十川

 道は次第に山あいを行くようになり、やがて高樋の集落に着いた。もう完全に快晴になっている。まだ田植えの始まっていない水田が鏡のように輝き、緑の畦が幾何学模様を描く。鶯の声しか聞こえない静かな里である。そこから見えるカーブミラーを曲がったところが東津野村との境である。道はいくぶん勾配を増し、さらに上流へと上っていく。ここまで来るとあの大きな四万十川も幅2~3mほどの小川になっていた。

高樋の棚田

 倉川で少し道のわかりにくいところがあったので一応地図で確認する。船戸はもうすぐのようだ。ここから山を見上げると淡い緑色の若葉が実に美しい。萌える新緑とはまさにこのことを言うであろう。写真を撮っておいたが、果たしてこの美しさが写真で再現できるだろうか。

倉川付近の新緑

 さらに岩土を過ぎると急に2車線のきれいな道となる。すれ違ったライダーが手を挙げて挨拶してくれた。四万十川沿いではサイクリストだけでなく、すれ違うときや追い越しざまに手を挙げて挨拶してくれるライダーが多い。ここでは同じ川の自然を楽しんでいる旅人という共通の仲間意識があるのだ。

船戸付近

 やがて国道197号線が見えてきて船戸に着いた。ここで四万十川に別れを告げて国道197号線を西へ向かう。四万十川の本当の源流点はこの先の不入山にある。国道197号線は改良が進んで2車線の非常にきれいな道である。それほど交通量の多い道ではないが、今までほとんど車の通らない道を走っていただけにこれでも交通量が多いと感じてしまう。ここから2kmほど上りが続き、壁地トンネルが本日の最高地点である。

R197壁地トンネル

 トンネルの前で写真を撮って一気に下り始めるが、下りはすぐに終わってしまい、また上り下りを繰り返す。地図では新田まで快適な下りが続くものと思っていたが、意外にも下りはほとんどなく、結構長く感じた。やがて東津野村の中心地新田に到着した。ここは商店街もあって結構にぎやかである。まだ食料を調達していないので、とりあえず雑貨屋でパンを購入する。この先全くの山の中に入るので、ここで買っておかないと空腹で走る羽目になるのだ。

 大田の交差点で大正の標識を見て国道439号線に入る。大正までは50kmもある。この道は徳島から中村まで続く四国で最も長い国道である。しかし非常に道幅が狭く時間がかかるため、車からは敬遠され交通量はきわめて少ない。ここからは四万十川の支流の一つである檮原川のまた支流の北川に沿って走る。もう正午を過ぎているのですぐ河原に降りて昼食にする。川の水は限りなく透明に近く、流れの音と吹き抜ける川風が心地よい。

国道439号大古味付近

 やがて大古味の集落に着くと見事な八重桜があったので写真を撮る。

大古味の八重桜

 もう少し行くと檮原町に入り、数少ない集落である影野地を通過する。そこを過ぎれば何もない山の中を走る。まぶしいばかりの新緑の美しさはいくら言葉を並べても表現できないほどだ。すれ違う車はほとんどなく、小鳥のさえずりしか聞こえない静寂の中を走る。この楽しさはどんな観光地でも味わえないに違いない。誰も知らないところでこんな楽しいことをしているという優越感。まるでこの自然を独り占めにして走っているようだ。サイクルツーリングとは精神的に贅沢な遊びなのである。この付近の森もまた四万十川の源流となっており、「四万十源流の森」の石碑がある。

四万十源流の森の碑

 そこからもう少し下ると檮原方面との分岐点である中平に着く。ここから少し上りが続いて辻堂峠という小さなピークを越える。ここで今日初めてサイクリストとすれ違う。車種はランドナーで長距離ツーリング中のようだ。もう少し行くと比較的大きな集落である松原に着く。ここに久保谷林道への分岐があり、窪川への距離を示す標識がある。林道を通ればかなり近道にはなるが、やはり峠越えはきつい。そのまま国道を下って行く。横を流れる檮原川は四万十川よりさらに美しいと思われる清流である。

檮原川

 やがて大正町に入り、下津井の集落に着く。橋の向こうには下津井ヘルスセンターという建物がある。見事な鯉のぼりがあったので写真を撮っておく。

天に泳ぐ鯉のぼり

 この辺まで来ると川幅はにわかに広くなり、すでに淀み始めている。下流にダムがあるためだ。ここからまた上りが続き、小さな峠に着く。深緑色の川を見下ろせる素晴らしい展望台だ。

下津井付近の檮原川

 峠を越えると少し下りとなるが、また小さなアップダウンが続く。川幅はますます広がって湖のようになってくる。かなり走った頃ようやく津賀ダムに着く。公衆トイレの前に備え付けてあった落書き帳に記念に記帳しておく。ライダーがかなり書いているようだ。ダムの湖畔にはまだ名残の山桜が咲いている。

津賀ダム

 津賀ダムを過ぎるとしばらく下りとなる。大正まであと8kmの地点に公園があり、少し休憩する。さらに下って大奈路まで来ると道幅も広くなる。サイクルコンピュータの距離はいよいよ100kmに近づいた。ここでロードレーサーとすれ違って挨拶を交わす。距離が100kmを少し越えた頃、ようやく国道381号線と合流する。

 大正町は久しぶりににぎやかな町である。JR土佐大正駅前でジュースを飲んで休憩する。

JR土佐大正駅

 少し狭い道を2kmほど走ると轟公園に着き、また休憩。ここにはミュージックトイレというのがあって、中に入ると赤外線センサーが感知して自動的に歌が流れる仕組みになっている。曲名は大正町テーマソング「四万十の青き流れ」。石碑には立松和平作詞・さとう宗幸作曲と書かれている。聞き覚えのある声が聞こえてきた。さとう宗幸の歌だ。最後の「四万十の青き流れを讃えたい」というフレーズが耳に残る。

 轟公園を出発すると窪川まではあと25kmほどだ。2年前にも走ったこの道を今度は逆向きに突っ走る。幸い追い風のおかげで30km/hくらいで走れ、快調である。こんな単調なところで向かい風にやられたらたまらない。途中打井川で写真を撮るため一度だけ止まる。夕方の逆光に川面がきらめき、沈下橋のシルエットが映える。

R381打井川付近

 あとはノンストップで走るが、窪川まで標高差が50mあるので25kmの距離があるとはいえ上りは上りなのだ。窪川が近づくにつれて明らかに上りとわかる坂がある。走行距離が120kmを越えるとさすがに疲れが出てくる。最後になってこの坂はつらい。窪川までの距離を示す標識の数字が減っていくことだけが励みになる。途中なぜか待避所に車を止めてドラムの練習をしている若者がいる。何もこんなところでやらなくてもと思うが、やっぱりあれは街中では練習できないからしかたないか。

 やがて窪川の町並みが見えてきた。岩本寺の標識に従って右折し、市街地に入る。帰ってきたかと思うと急に力が抜けてスピードが出ない。午後4時45分、ようやく岩本寺YHに到着した。サイクルコンピュータの距離は120kmを大きく越えて127.77kmを示していた。かなり疲れたが少なくとも120kmまでは走れるという自信がついた。そしてYHに戻ると初日の最御崎寺YHで出会ったサイクリストと5日ぶりに再会した。話を聞くと徳島から120km走って室戸岬で泊まり、翌日は窪川まで175kmを走ったそうだ。その後足摺岬を回って宿毛、宇和島と走り再び窪川に戻ってきたという。そして明日はまた100km走って大豊町まで行くのだそうだ。本当によくやるとしか思えない。自分など今日127km走っただけで疲れているのに、それを毎日などとてもやれないと思う。彼の話によると最初の2日くらい我慢すれば自然に体がそうなってしまうそうだが、そんなものなのだろうか。久しぶりに長距離を走った充実感を残して、翌5月3日四国を離れた。

走行距離 走行時間 平均速度 最高速度 最高地点 最大標高差
127.77km 5:53:55 21.6km/h 45.0km/h 470m
壁地トンネル
330m

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