2003.9.17 ツール・ド・愛媛~四国遍路の旅~(3日目)

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自転車

実走日:2003年9月17日(水)
コース:大瀬~小田~真弓峠~落合~御三戸~七鳥~下畑野川~久万

 今日はいよいよ久万高原にアタック、最大の山場を迎える。札所はわずか二つだが、どちらも手強い。八十八ヶ所の中でも難所の一つに数えられる。歩き遍路の場合は下板場峠・ひわた峠を越えて久万へ至るのが一般的であるが、自転車の場合はひわた峠が通れないので別ルートをとる。大きく分けて国道379号・県道42号経由で下板場峠を越えるルートと国道380号経由で真弓峠を越えるルートがあるが、標高的にはどちらもほぼ同じ。距離を計測してみると後者の方が3kmほど短かったので、真弓峠越えを選択した。その場合、44番・45番と順打ちすると同じ道を二度通ることになり、効率が悪い。効率的に回るためには45番・44番と逆打ちするのがよい。そのため今日の宿は44番に近い民宿笛ヶ滝を予約した。距離的には50kmほどだが、高低差が大きいのでこのくらいにしておくのが後に疲労を残さない秘訣だろう。

 民宿来楽苦を午前8時に出発。この時間はまだ涼しいが、涼しいうちに高度を稼いでおかないと後が大変だ。2km弱で国道380号との分岐点・突合に到着する。ここは道を右にとり、国道380号に入る。これより小田町となる。小田川沿いに走って3kmほどで町の中心部に入る。小・中・高と学校が三つも並んでいる。旧道に入って役場前にグレ電がないか探したが、残念ながらグリーンだった。県道52号との分岐点には田舎によくある個人経営のコンビニ「アップル」があったので、昼食用のおにぎりを調達する。ここから国道は小田川から大平川沿いへ移る。

突合の交差点

 分岐点から大平川に沿ってゆるい上りがずっと続く。早くも暑くなってきた。途中、日野川の集落を通過し、さらに大平の集落に入ると最初のヘアピンカーブがあり、本格的な峠道となる。この地点で標高が400mあり、町からはすでに200m以上上ってきたことになる。峠まではあと200m弱の上りだ。

国道380号日野川付近

 つづら折れの峠道になっても勾配は今までとほとんど変わらない。ずっとゆるやかなままである。こういう道はカーブのたびに足を休められるので上りやすい。また上ってきた道が下に見えるのも楽しい。自転車には実に優しい道だ。道は谷を取り囲むようにして上っていく。時々休みながらゆっくりと上る。日当たりが良くて暑い。やがて久万への距離を表す標識があるところで180度向きを変える。ここまで来れば峠はもう近い。勾配はさらにゆるやかになり、あと1kmほどで真弓トンネルの入口に到着する。こういう峠はいくら高いように思えても、時間さえかければいつかたどり着くものなのだ。

真弓峠への上り

 時間は10時を少し過ぎている。ここまでちょうど2時間を要した。トンネルの手前には立派な東屋があり、ベンチに寝そべって20分ほど休憩。

真弓トンネル

 10時半頃トンネルを抜け、久万町へ入る。しばらく快適なダウンヒルが続くが、こちら側の下りは短い。それは久万が高原の町であることを示している。父野川からはペダルを回さないと進まないほどのゆるい下りとなり、あと3kmほどで国道33号との交差点・落合に着く。

国道380号父野川付近

 落合の交差点を右折し、国道33号を高知方面へ進む。国道33号は高知と松山を結ぶ幹線国道ではあるが、このあたりは比較的交通量少ない。右折して数百メートルも行かないうちにアクシデント発生。何かが落ちる大きな音がしたかと思うと、路面にライトが転がっていた。現在使っているTOPEAKのフロントバッグは、バッグの底にライトを取り付けられるアダプターがあるのだが、それの固定が甘いようで振動で勝手に外れてしまったのだ。どうもこのバッグは取り付け部の構造が悪く、非常に激しく揺れるし強度的にも問題がある。そのことは翌日決定的となってしまった。落ちたライトは衝撃でバラバラに分解してしまっている。拾い集めたがいくつか部品が足りない。探し回っても近くには全然見つからない。あきらめて行こうかと思ったとき、さらに10mほど先に落ちているのを発見した。思いの外、遠くまで散乱してしまったのだ。その場で組み立てようとしたが、組み立て方がよくわからないのでそのままフロントバッグに突っ込んで出発する。これで約10分のロスタイム。気を取り直して再び走り始める。川の下流に向かっているのでわずかながらもゆるい下りだ。ペダリングは軽い。しかしまた上り返さなければならないと思うと全然うれしくない。上黒岩というところには古代人の遺跡があったが、そこへも立ち寄らずに先を急ぐ。御三戸に出る手前には美川村の道の駅があり、そこで少し早めの昼食休憩。ついでに明日の宿に予定している北条水軍YHに予約を入れる。問題なく予約が取れた。

国道33号上黒岩付近

 12時頃道の駅を出発。御三戸の交差点を左折し、県道212号に入る。面河川沿いにゆるやかに上り、約3km先の七鳥で左折して県道12号に入る。ここからは直瀬川に沿ったゆるやかな上りとなる。

県道12号七鳥付近

 あと4kmほどで岩屋寺入口に到着し、ここに自転車を置いて参道を歩いて上る。入口付近には土産物屋が並んでいる。すぐに急坂となって、少し上れば山門があった。もう着いたかと思ったのは早合点、実はここからが長かった。坂はますますきつくなり、もう脚が棒になりそうだ。SPDシューズで余計に歩きにくい。途中お地蔵様がたくさん並んでいるところがあるが、そこからまだはるか上に建物が見える。あそこまで上るのかと思うと急に気が抜ける。またすごい急坂をヘロヘロになりながら上り、やっとの思いで納経所のある建物に着いた。結局入口から20分ほどかかった。たとえ車で来てもここは歩いて上らなければならない。おそらくここは八十八ヶ所の中で駐車場から一番遠い寺ではないだろうか。年寄りには実に厳しい寺である。

岩屋寺入口

 本堂は納経所からさらに一段上にある。また階段を上ってようやく本堂にたどり着く。ローソクと線香を供え、いつものようにお参りする。難攻不落の岩屋寺へついに自力で来たのだと思うと感慨深い。出発前はまさかここまで来られるとは思わなかった。これも弘法大師のお導きなのだろう。大師堂は本堂よりも大きく立派だが、残念ながら現在工事中で枠組に覆われ、全容を見ることはできない。その中でのお参りは何とも味気なかった。それにしてもこの寺は垂直に近い岩壁にへばり着くように建てられており、よくこんなところに寺を建てたものだと感心する。

45番岩屋寺

 納経を済ませ、またクリートをカチカチ鳴らしながら急坂を下る。再び自転車に乗って県道12号をさらに上っていく。岩屋寺入口から間もなく久万町に入り、2kmほどで古岩屋に着く。この辺りは中国の桂林のような岩山がたくさん林立している不思議な光景だ。ここには国民宿舎もある。また500mlペットボトルを補給してちょっと休憩。古岩屋を過ぎてもさらにダラダラ上りが続く。かなり疲れが出てきた。西之川の集落あたりで反対側から来たオートバイの青年に道を尋ねられる。嵯峨山というところに無料の温泉があるらしいが、どのあたりか知らないかということだった。自分は温泉のことは知らなかったが、嵯峨山はもう通り過ぎているということだけを伝えると礼を言って戻っていった。そして嵯峨山の集落まで来てみると「温泉前」というバス停はあったものの、どこが温泉なのかよくわからなかった。

県道12号竹谷付近

 そして嵯峨山から非常に堪える長い上りが始まった。自動車道に特有の勾配が一定した直線の上り。自転車には最も嫌な上りである。見ただけで一瞬気が萎えた。しかしここを上らなければ先に進めない。標高差にしてわずか60mほどではあるが、とても長く感じられた。そしてピークに達すると今度は下畑野川まで長い下り。今まで上った分を全部下ってしまう。峠御堂まではずっと上りっぱなしだと思っていたので、この下りは計算に入っていなかった。また上り返すのかと思うと全然うれしくない下りである。下畑野川まで下ると今度は峠御堂に向かって先ほどにも増してきつい上りが続く。ここで完全に打ちのめされた。しかし距離的には1kmほどで知れている。まもなくトンネルが見えてきて安心する。そのすぐ手前で若い歩き遍路さんとすれ違い、軽く挨拶を交わす。確か昨日民宿へ向かう途中で追い抜いたのを覚えている。トンネルを抜けると豪快な下り。ただし飛ばしすぎて大宝寺への入口を見逃さないように注意しなければならない。行き過ぎたらまた上り返しになってしまう。「大宝寺入口」のバス停を無事発見し、左折して数百メートルで参道に着く。

峠御堂トンネル

 ここでも参道入口に自転車を置いて歩き始める。岩屋寺ほどではないが、やっぱりきつい坂が続く。そうしているうちに大きなショルダーバッグを抱えた若い男性が二人追い抜いていく。しばらく遍路を続けているとわかるが、彼らは団体参拝バスの添乗員で、人数分の納経帳をまとめて納経所へ持ち込み、ツアー客がお参りをしている間に宝印を押してもらうのだ。シーズン中などはこれにやられると1時間も待たされることがあり、たまったものではない。とにかく団体客は目の仇だ。後ろを見るとやかましいオバチャン連中が迫ってきている。こういう団体客は歩くのが遅いので先回りするに限るが、悲しいことに自分もヘロヘロに疲れ切っているので速く歩くことができない。ついに追いつかれてしまった。そして本堂前に集まり、読経を始める。こうなったらまだ時間は早いので団体客が立ち去るまで待つことにしよう。ところがこの団体の読経は変わっていて般若心経を二度繰り返すなどやたらと長く、なかなか終わらない。同じことを考えているのか、歩き遍路さんがもう一人イライラしながら待っているのがわかる。おそらくこれは自力で来た者にしかわからない感覚だろう。せっかくの静かな境内を何の苦労もなく来た連中にぶち壊されるのがたまらなく嫌なのだ。やっとうるさい団体客が立ち去って元の静けさが戻ったのを見計らって心静かにお参りする。

44番大宝寺

 今日の行程はこれで終わり、あとは坂を下ってすぐ近くの民宿に入るだけだ。久万町の役場前にグレ電がないかと期待したが、やっぱりグリーンだった。山の中はことごとく駄目。結局、今日一日はインターネットにアクセスできずじまい。民宿笛ヶ滝は国道沿いにあり、すぐ見つかった。午後4時頃にチェックインする。やはり4時には宿に着くようにするのが疲れを残さない秘訣である。もし欲張って松山まで足を伸ばしていたら三坂峠あたりでぶっ倒れていたであろう。今日の民宿は昨日とは打って変わって近代的な建物。部屋はワンルームマンション風になっていてバス・トイレ付き。おまけにベランダもあって洗濯機が自由に使える。物干しがあるから乾きが早い。今日も汗まみれになったシャツなどを洗濯しておく。そして風呂に入ってゆっくりくつろぐ。やっぱり風呂にも入れない野宿遍路はとても耐えられないだろうなと思う。いかにも軟弱ちゃりだーらしい。

民宿笛ヶ滝

走行距離 走行時間 平均速度 最高速度 最高地点 最大標高差
50.58km 3:27:06 14.6km/h 44.5km/h 610m
峠御堂トンネル
495m

■ノート

食料が調達できるのは小田町のコンビニ「アップル」と「道の駅みかわ」くらいしかない。

民宿笛ヶ滝は1泊2食税込6,000円。

片雲の風に誘われて