2003.9.18 ツール・ド・愛媛~四国遍路の旅~(4日目)

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自転車

実走日:2003年9月18日(木)
コース:久万~三坂峠~浄瑠璃寺~久米~石手寺~道後~太山寺~和気=(輪行)=北条

 昨日で難関の久万高原をクリアし、今日は三坂峠を越えて松山まで下るのみ。市内の札所はほぼ平地だから苦労はないが、一日で8ヶ寺を回るため納経時間に間に合うよう時間配分に気を付けなければならない。かなり忙しい一日になりそうだ。

 民宿笛ヶ滝を午前8時に出発。すぐ前の国道33号に出て久万の市街を通り抜ける。高原特有の朝霧が立ちこめていて、今日一日の晴天を約束するかのようだ。三坂峠までまだ標高差200mほどを上らなければならないので、ダラダラとゆるい上りが続く。走り出したばかりとはいえ、これは結構堪える。

朝霧に煙る国道33号

 三坂峠手前の上りにさしかかると急速に霧が晴れてきて抜けるような青空が覗く。峠手前に休憩所があったので一休み。ここからもう一息で峠だが、ダラダラ上りがなかなかきつい。9時ちょうどにようやく三坂峠到着。ここが全コース中の最高地点、標高720mである。標高差は約200mしかないのに距離が長いせいで余計に辛く感じる。急坂で一気に上ってしまった方がよっぽど楽だ。

三坂峠

 峠を越えると松山市街まで標高差700mにも及ぶ豪快なダウンヒルが続く。高知から延々100km近くかけて徐々に上り詰めるのとは対照的である。さすがに路面が良く、40km/h以上は楽に出せる。とても気持ちの良い下り。こちらも高速で走っているので車に追い越されることもほとんどない。

三坂峠の豪快な下り

 標高100mおきに高度を示す標識がある。浄瑠璃寺への降り口は標高300mと200mの間にあり、それを見逃さないように気を付けなければならない。もし行き過ぎてしまったら大変な遠回りになる。時々松山市街がはるか眼下に見える。これを逆に上るのは大変だろう。標高400mの標識を過ぎると工事のため片側通行止め。しばらく待たされる。車の最後尾について再び下り始めるが、標高300mの標識がなかなか見つからない。そのうちにループらしき部分に入ってしまった。工事に気を取られて見落としてしまったのか。そして左手に「浄瑠璃寺・八坂寺」と書かれた小さな標識を発見。錆が浮いていて見えづらく、危うく見落としそうな感じである。

三坂ループ降り口より松山方面を見下ろす

 降り口からは松山方面の展望が広がる。ここから1車線の狭い道を一気に下っていく。相当な急勾配だ。しかも路面が悪く、フロントバッグがバタバタと暴れる。途中池を渡る部分があり、間もなく浄瑠璃寺に着く。デジカメの記録によると9時38分。

46番浄瑠璃寺

 浄瑠璃寺は町はずれにある小ぢんまりとしたお寺。この時間はまだ閑散としている。こういう感じのお寺は結構好きだ。20分ほどで参拝を済ませて次の八坂寺へ向かう。

 八坂寺へはわずか700m。境内は狭くて山門から入ってすぐ本堂がある。歩きでエネルギーを使わなくて済むのはありがたい。

47番八坂寺

 八坂寺からは御坂川を渡って県道40号に出る。久谷大橋で重信川を渡り、間もなく西林寺へ。こう次々と札所が続くとうれしくなる。ここは大きな山門がある立派な構えのお寺。ここはちょっと人が多めだった。

48番西林寺

 次の札所へ向かって出発しようとしたとき、フロントバッグの異常を発見。バッグ本体と着脱アダプターを固定している4本のボルトのうち1本が外れてしまっている。浄瑠璃寺へ下りる坂道で何かが飛んだような音がしたが、その時に外れたものと思われる。重さに耐えかねて今にもちぎれそうな状態である。このまま放置すれば崩壊は時間の問題だろう。バッグが壊れてしまったらもう走ることはできない。応急処置としてたまたま持っていたベルクロテープでハンドルバーに引っかけ、少しでも荷重を分散させる。それにしてもTOPEAKのフロントバッグは評判通りすぐ壊れる。振動でガタガタ揺れるのも最悪だ。もう二度と使わないことにした。

 伊予鉄道の踏切を渡り、左折するとすぐ浄土寺に着く。この道は幅が狭い割に交通量多い。県道からわずかに離れて浄土寺門前に着くと今までの喧噪が嘘のような静けさに包まれる。

49番浄土寺

 浄土寺を出てすぐ右手にあるコンビニ前でようやくグレ電を発見したのでメールチェック。かなりたまっていた。久米駅前の交差点を右折して再び県道40号を行くが、以前にも増して道幅狭い上に交通量が多い。繁多寺へ行くには歩き遍路用の道を行くと少し近道になる。遍路マークを見つけたのでそれに従って右折するとすぐ墓地の中を通り抜ける。それから少し住宅街の間を抜けると見晴らしの良い高台に出て繁多寺門前に着く。ここは境内が広く、本堂までしばらく歩く。

50番繁多寺

 再び住宅街の中を抜けて県道40号に戻る。狭い割に大型バスが通る道をあと1kmあまり行くと石手寺に着く。門前はごちゃごちゃしていて狭い感じ。参道には露天が並び、観光色の強いお寺である。仁王門は国宝、本堂・三重塔は重要文化財に指定されており、風格を感じさせる。火災を警戒してか本堂前には燭台が設置されていない。納経所前にまとめて供えるようになっている。納経所に麦茶のサービスがあるのがうれしい。

51番石手寺

 石手寺を過ぎると次の太山寺まで少し距離がある。道後温泉の方へ下っていって、路面電車の道後駅に着く。ここから東西に走る県道に出るにはどうすればよいのかちょっと悩む。駅の北側に回ってみたが行き止まり。引き返して道後のアーケード街をゆっくり抜けていくと東西の道に出た。まっすぐ西へ進むと愛媛大学・松山大学の前を通って木屋町で国道196号に出る。ここで道を一本読み違えていて少し北側へ行き過ぎてしまった。本来はそのまま直進すべきであった。狭い道を適当に通り抜けて元の道に復帰する。また少し西へ走るともう一本の国道196号と交差する。ここにロッテリアがあったので昼食にする。こういうのを見ると久々の都会を実感する。

 昼食後さらに西へ進み、久万ノ台で右折して南北に走る県道に入る。この道を通るとアップダウンを避けることができる。どこで曲がるべきか見極めるのがちょっと難しいが、「安城寺町」という地名に注意しながら走る。そこと思われる場所で左折して予讃本線を渡ると山裾に近づく。この山裾に沿って5万図に黒実線で示されている狭い道があるはずだ。中学校の横を通ってその道に出た。計算通りだ。全く迷うことなくここまで来られたことに満足する。そして三津浜方面から来る県道に合流して西へ向かうと太山寺門前に出た。太山寺は松山市内の中では唯一山の上にあり、実はここからがちょっと長い。自転車で行けるところまで行ってあとは歩くことにしよう。山門をくぐるといきなり急坂。しかし乗って上れないほどではない。200mほど行って右手に納経所がある。本堂はさらに150m先にあるが、とても乗れない急坂なので駐車場に自転車を置いて歩く。あまりの急坂に足がつりそうになる。やっと鐘楼に着いたと思ったら本堂はまだ階段の上。とことん登らせてくれる。でも風格のある立派なお寺なので大満足だ。人も少ないので時間をかけて長めにお参りする。まだ時間も3時過ぎだから次の円明寺には余裕で着けるはずだ。再び納経所に戻って宝印を頂き、次の札所へと向かう。

52番太山寺

 円明寺へはもと来た県道を戻ってまっすぐ東へ向かうだけだから迷うことはない。距離はわずか2kmほど。ここまで来たらもう着いたも同然だ。今日は何もかも順調に進んで自分の計画に満足していた。しかし何か嫌な予感がずっとしていたのだ。何もかもこんな順調に行くはずがない。何かがきっと起こる。それは52番と53番の間だという確信めいた予感まであった。円明寺まであと1kmとなり、見通しの良い直線路に入って加速したその瞬間、後ろから大きな破裂音が聞こえた。それとともに聞こえるカチカチという周期的な金属音。何だろうと思って止まり、後ろを見ると後輪がパンクしていた。しかしパンクくらいであわてることはない。30分ほどロスしても十分間に合う。さっそく後輪を外して修理に取りかかろうとしたそのとき、思わぬものを見つけて顔が青ざめた。何とタイヤのセンターからサイドにかけて長さ5cmくらいの釘が突き刺さっているのである。しかもサイドの一部が裂けてしまっている。これはチューブを交換しても再バーストの危険がある。当然タイヤの予備はない。しかしとにかく修理しないことには始まらないので予備チューブと交換する。

タイヤサイドに釘が・・・

 大した傷ではないのでこれで大丈夫だろうと思って再び空気を入れ始める。一応順調に空気圧は上がっていくようだ。調子に乗ってどんどん空気圧を上げてしまった。愚かなことに傷口を確かめるのをすっかり忘れていた。ふっと見るとタイヤの裂け目から黒いゴムが風船ガムのように飛び出しているのを見つけた。それに気づいたときにはすでに遅く、わずか数秒の後に大爆発。一瞬にして予備チューブが無駄になった。予備チューブまで失ってしまい途方に暮れた。これはもう走れない。24インチのロードタイヤ・チューブなど普通の自転車屋で手に入るはずもなくお手上げである。

 これ以上手の施しようがないので修理をあきらめとぼとぼと歩き始める。どんなトラブルに遭遇してもすべてはお大師様が何かを教えるために与えて下さった試練と考えるのが遍路の心得である。これはきっと最後まで気を抜くなという意味なのだなと解釈する。すべては心の持ちようでプラスに転化することができるのである。幸いまだ時間には余裕がある。歩いてもせいぜい15分ほどだ。そして4時頃円明寺に到着。一通り参拝して納経を済ませる。これで一応今日の日程は全て完了した。しかし北条に宿を取っているので何とかそこまで行かなければならない。もちろん走っていくのは無理だが、幸いなことに伊予和気駅がすぐ前にある。電車の本数も多いからちょっと待てばすぐ乗れるだろう。さらに幸運なことには北条水軍YHも駅からとても近いのだ。致命的なダメージを受けた割には何かついている。これもお大師様の慈悲に違いないと感謝する。

53番円明寺

 5時過ぎの電車に乗って伊予北条駅まで輪行する。こういうとき折り畳み自転車は本当に助かる。輪行の手間はわずか数分だから全く気にならない。駅から5分ほど歩いて6時前に北条水軍YHに到着。ここへ来るのは1年ぶりだ。昨年来たときとても雰囲気が良かったので楽しみにしていた。今日は平日だから一人だけかなと思っていたが、京都から来たライダーさんやなぜか地元のおばちゃんが大勢集まってにぎやかな夜となった。夜のうちにガムテープを借りてタイヤを応急修理する。かなり大きな穴が開いたチューブをパッチで補修し、何とか使えるようになった。そしてバーストしたタイヤの内側からもパッチを貼り、さらにガムテープで補強した。明日は東予港からフェリーで帰る予定だが、駅から港までは6kmほど走らなければならない。これで何とか数キロくらいはもってくれそうな感じである。

北条水軍YH

 当初の予定では今治まで行って59番まで回るつもりであったが、自転車のトラブルでそれは叶わぬこととなった。それ以前に明日から天気が崩れるそうなので中断することも考えていた。ちょうどよかったといえるであろう。また来れば良いだけのことだ。翌日10時過ぎの電車で北条を後にし、東予港最寄りの壬生川駅まで輪行する。そこから約6km走って無事東予港に着いた。何とかタイヤは持ちこたえてくれた。しかしフェリーターミナルに置いて食事している間になぜか再パンクしていた。直射日光に当たって熱膨張によりパッチが剥がれてしまったのだろうか? とにかくもう走る必要はないので直す気も起こらなかった。パンクしたまま押して14時30分発のフェリーに乗り込む。2等指定を取ったものの昼の便とあって船内はガラガラ、ほとんど貸し切り状態だった。オレンジフェリーの船内設備はなかなか豪華で快適である。食堂や売店も安くて良心的である。船員さんの応対もとても気持ちよかった。気に入ったので次回もまた利用することにしよう。

走行距離 走行時間 平均速度 最高速度 最高地点 最大標高差
47.13km 2:53:59 16.2km/h 47.0km/h 720m
三坂峠
720m

■ノート

伊予和気~伊予北条間はJR運賃260円。

北条水軍YHは1泊2食税込4,830円。

伊予北条~壬生川間はJR運賃1,060円。

オレンジフェリーは東予港~大阪南港間二等指定4,100円・自転車1,360円。

片雲の風に誘われて