2004.6.14 海を見よう!~熊野まで自走ツーリング~(2日目)

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自転車

実走日:2004年6月14日(月)
コース:天川(川合)~行者還トンネル~上北山~下北山~五郷町桃崎~飛鳥町小阪~熊野市駅

 今朝は5時に目が覚めた。昨夜は9時に就寝したのでそれでも8時間寝ているのだ。気分はすっきり、昨日の疲れは残っていないようだ。今日も朝から素晴らしい快晴、暑くなりそうだ。7時半から朝食をとりながらYHのペアレントさんと話していると、自転車で来る人も結構いるらしい。行者還を越えると言うと驚かれたが、ここですでに標高600mあるのだから全然大したことはないのだ。8時半頃にYHを出発する。さすがに日陰はまだ肌寒いくらいだ。

 北角の集落を過ぎてミタライ渓谷へ入っていく。紅葉の時期は観光客でごった返すこの場所も今は人影もない。小さなトンネルを抜けるといよいよ無人地帯へ入っていく。ずっとゆるい上りが続くので良いペースで上っていける。この道も車ではよく走っているが、自転車で走るのは初めてだ。こんなにゆっくり景色を楽しみながら走ったことはない。道幅が大変狭く、車には全く気の抜けない道なのだ。でも自転車にとってはこれほど楽しい道はない。土日は行楽の車が結構通るが、今日は月曜日なのでめったに車も通らない。まさに自転車天国だ。川迫ダムを過ぎると山並みが大きく迫り、清流が目にも美しい。神童子谷分岐まで一番景色の良い部分が続く。途中、電線工事のためトラックが道を塞いでおり、交通整理をしていた。決まったようにどこまで行くのかと尋ねられる。「熊野まで」と言うと、「これからえらい上りやで~」と言われる。はい、わかっております。

 そして神童子谷の分岐を過ぎると道は布引谷に沿って上り始める。小坪谷との分岐にかかる吊り橋まではまだゆるやかな上りだ。そして吊り橋のところからは南側がスッパリと切れ落ちた行者還岳の威容が姿を現す。吊り橋を過ぎるといよいよ勾配が急になり、ここから谷を詰めて折り返す地点までが一番辛い上りだ。だいたい7~8%くらいだろうか、ほとんど一定の勾配が続く。このあたりは紅葉の絶景ポイントで、風景写真を撮っていた頃はこの付近を重点的に巡回したものだ。左の山肌を見るとはるか上方を這い上がっていくガードレールが見えて怯みそうになる。しかしもう少し頑張って折り返し地点まで上り詰めればあっけないほど簡単にその場所に到達する。もう一度尾根を折り返す地点まではとてもゆるやかな上りで景色も最高である。左前方にはゴツゴツとした特徴のある山容が迫ってくる。稲村ヶ岳の前衛峰、バリゴヤ谷ノ頭である。そして後ろを振り返れば雄大な盛り上がりを見せる弥山が間近にそびえている。いつもはガスに覆われてなかなか姿を見せてくれないが、今日はくっきりと見えている。そして眼下には先ほど上ってきた道がうねうねと続いているのが見える。実にダイナミックな景観である。

行者還への上りから見るバリゴヤ谷ノ頭

 尾根を折り返すとまた少し勾配が急になり、標高差にしてあと100mほどを上る。トンネル直前の200mほどは10%を超えるような急勾配で非常に辛い。登山用の駐車スペースが見えると間もなく行者還トンネルである。トンネルの横には無名の小さな滝がある。ここまで思ったより簡単にたどり着くことができた。ここが弥山への登山口となっていて、登山届を入れるポストが設置されている。平日にもかかわらず駐車場は満杯である。土日はいったいどんな恐ろしいことになるのだろうか。

 さていよいよライトを点灯してトンネルに突入する。この道は元林道だけあって照明は一切ない。恐怖の暗黒トンネルである。初めのうちは入口からの明かりがあり、うっすらと路面が見えているので安心した。一直線なので出口の明かりは見えている。しかしいっこうに出口が近づいてこない。それもそのはず、1km以上もあるのだ。これまで1kmを超える暗黒トンネルは経験したことがない。トンネル中央に近づくにつれて完全な闇に包まれた。ここでライトを忘れたら悲惨である。壁がどの辺にあるのかわからなくなってしまうだろう。しかしライトのおかげでかろうじて路面の様子は見える。フロントバッグを付けたせいでライトの付け場所がなくなり、仕方なくフロントフォークに取り付けているが、角度が近すぎて前方1mくらいを照らしてしまう。もう少し先を照らせれば安心できるのだが・・。3分の2くらい過ぎると出口の明かりに導かれるようにスピードアップ、長いトンネルを抜けた。

 トンネルの反対側はひっそりとしているが、こちらの方が展望は良い。いよいよこれから長いダウンヒルの始まりだ。国道309号の上北山側は車でも一度しか通ったことがないと記憶している。山腹を縫うように豪快なダウンヒルが続く。向かい側の山肌には植林の中にパッチワーク状に自然林が残っており、秋はまだら模様の紅葉が楽しめるのだ。そのためよく写真に撮られている。自分はまだここでは撮ったことがなかった。道がいったん折り返すところで大台方面の雄大な展望が開ける。しばし立ち止まって写真を撮った。ふと下を見ればうねうねと道が続いている。あそこまで下りるのか、まだまだ高度差はありそうだ。その場所まで下ってくると今度ははるか上にガードレールが見える。逆方向からの上りは相当厳しいと思われる。あとはナメゴ谷沿いに下っていって国道169号の天ヶ瀬に出る。

 標高500mまで一気に下ってしまったので、1100mまで上ってもその貯金を有効に生かせないのは実に効率の悪いツーリングだ。西原を経て河合までは概ね下りであるが、その後は細かいアップダウンの連続となってしまう。平日でほとんど交通量のない国道169号を快調に下っていく。2年前大台ヶ原のヒルクライムで逆に上ったのを思い出す。西原で久しぶりに人家を見つけるとほっとした気になる。中学校を過ぎると間もなく道の駅に到着する。そろそろ昼前なので、河合の集落内にある「北山食堂」で昼食をとる。格好でわかるのだろうか、ご主人にどこまで行くのかと聞かれる。ヒルクライム大会が行われているだけあって、自転車には親しみがあるようだ。最近新しいトンネルが開通して北山村方面がぐっと近くなったという情報を得る。食事を終えると飲料を補給して河合を後にする。この先、前鬼橋の自動販売機まで補給できそうなところはない。

 河合を過ぎると次第に川幅が広くなり、白川橋を渡ったところからは広大な池原貯水池となる。行けども行けども同じような景色が続く。このあたり全くの無人地帯。でもボートの昇降場が多く、それなりに車は出入りしている。それにしても小さなアップダウンが多いのにはうんざりさせられる。今日は昨日と違って南風、まともに向かい風なのだ。単調な景色がさらに距離を長く感じさせる。いい加減退屈してきた頃、アーチ状の前鬼橋を渡る。前鬼へ至る林道の入口には自動販売機とトイレがある。そこを過ぎるとまた単調な道が続き、やがて短いトンネルを抜ける。ここが音枝峠だ。といってもどこが峠だか全くわからない。トンネルを抜けたところが国道425号との分岐になっていて、ちょっと池原ダムを見に行く。巨大なアーチを描くダム堤はものすごい高さで目がくらみそうだ。また国道169号に戻り、左下にスポーツ公園を見ながら一気に下っていく。この坂は結構きつく、逆に上ると辛いだろう。

 池原の集落は結構大きく、商店もいくつかある。南池原橋を過ぎるとトンネルの連続となる。小口橋を渡るといよいよ三重県熊野市に入る。さらに土場隧道を抜けると別の水系となり、川の上流に向かって進むことになる。つまりここから上りになるのだ。これが計算に入っていなかった。上り基調で時々下りもあるアップダウンの連続となる。池原貯水池のアップダウンでだいぶ疲労が溜まっているだけにだいぶ辛くなってきた。特に高尾谷をまたぐところでは新しい道の工事をしており、トンネルまでかなり上らされた。そこからもう少しで五郷町桃崎の交差点に着く。分岐を右へとれば北山村方面だ。

 商店の前に自動販売機があるので飲料を補給し、直進して国道309号を進む。この先は少し交通量が増える。また大又川に沿って上るのは承知していたが、きつい上りはないものの結構ダラダラと堪える。おまけにずっと向かい風なのだ。神山と佐渡の付近では山を越えるちょっと急な上りがある。熊野まではほとんど下りだと思っていたが、実はそうではないのだ。佐渡から山を越えて下ると国道42号との交差点に出る。

 国道42号に入るとすぐ小阪峠への上りとなる。たかだか40mほどの上りではあるが、これがなかなかきつい。おそらく今回のツーリングで一番辛かった上りだと思う。小阪トンネルは標高330m、長さは300mほどである。やっと上り切った。これでもう上りはない。交通量の多い嫌なトンネルを抜けると佐田坂と呼ばれる長い下りに入る。カーブの連続する急坂を40km/h以上の高速で駆け下りていく。追い越してくる車もほとんどない。半分ほど下ったところで右手に海がちらっと見えた。いくつもの山を越えてついに太平洋まで来たのだという感動が湧き起こる。どんどん下っていくとバイパスとの分岐があるが、左の旧道の方へ入るとJR大泊駅前に出る。

 すぐ目の前が大泊海水浴場だ。潮風の匂い、まぶしい砂浜、まさに今海を前にしているのだ。標高1000m超の大峰山脈から海へのツーリングは劇的だ。せっかくなのでまだ見たことのない「鬼ヶ城」を見に行く。土産物屋の建ち並ぶ有料駐車場はまさに観光地そのものだ。そこを抜けると遊歩道に出て断崖絶壁にひときわ大きなオーバーハングした岩が見える。鬼が口を開けているように見えることからそう名付けられたのであろう。ちょうど夕方で観光客も引き上げたところで、そこには2~3人しかいない。潮騒を聞きながらしばし感慨に浸る。「鬼の口」の空間は思ったより巨大だ。しかし落盤の危険防止のためか、工事用のカラーコーンがいっぱい並べられているのは興醒めだ。

 4時も過ぎたので熊野市駅へ向かう。国道42号の鬼ヶ城トンネルは自転車通行禁止なので横の歩道トンネルを通る。でも向こうから車が走ってくるではないか。よく見ると自転車歩行者専用ではなく、車両は東行き一方通行のトンネルであった。このトンネルは鬼ヶ城トンネルができる前の旧道であろう。レンガ造りの入口壁面は風格がある。トンネルを抜けてから町の中の道を適当に走るとJR熊野市駅前に着いた。熊野には何度か来ているが、駅前まで来たのは初めてだ。まだ時間があるので町の中をうろうろしてみる。17:48発の特急「南紀8号」で帰途に就く。列車は3両編成だが、空いていて車両の一番後ろの特等席を確保できた。特急輪行は人の出入りが少なくて快適である。この後、松阪で近鉄に乗り継いで22時前に帰投した。列車で4時間もかかるところへ行ってきたのだ。自宅から出発するグランドツーリング、これからは「大型片道輪行」と呼ぶことにしよう。

走行距離 走行時間 平均速度 最高速度 最高地点 最大標高差
85.32km 4:59:05 17.1km/h 50.5km/h 1120m
行者還トンネル
1115m

■ノート

行者還トンネルは冬期通行止。

熊野市~松阪間はJR運賃2,210円、自由席特急料金1,780円。

片雲の風に誘われて