貧脚判定器を開発しました

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ソフト開発トレーニング理論自転車轍 Wadachi

自転車のモチベーションを上げるには練習の成果が数値化できると嬉しいですよね。まあタイムを測るだけでも良いのですが、タイムというのは気象条件や路面状況によっても左右されやすいので、あまり適切ではありません。そこで最近よく行われているのがパワーを測定する方法です。自転車にパワーメーターを取り付けてペダルからの踏力を直接測定することにより、脚力を純粋に計測することができるわけです。一般的にはパワーが上がればトレーニングの効果が表れていると考えることができます。

ただパワーメーターというのは安くても10万円くらいする非常に高価な機材なので、素人が気軽に手を出すわけには行きません。そこまでやるのはレース入賞などを目指してよほどトレーニングに入れ込んでいるマニアくらいでしょう。そこで「轍」ではパワーメーターがなくてもGPSログから擬似的にパワーを推定する機能を実装しました。それが2年前のことでした。

実はその時に同時にやろうと思っていたのがFTPの推定機能です。後で説明しますが、FTPというのはライダーの脚力を評価する上で最も有用と思われる指標です。これを測定することにより、自分が剛脚か貧脚かを客観的に評価することができます。本来はその時に同時にやってしまえばよかったのですが、全く反響がなかったため開発のモチベーションが下がり、ほったらかしになってました(笑)。今となっては自分が書いたソースを解読するのも困難(笑)。最近アクセスが激減してますので、やっと重い腰を上げてFTP推定機能の実装にこぎ着けました。ダウンロードは下のサイトからどうぞ。

最近はPCを持っている人が少ないので、本当はスマホかWebでやればいいんですけどね、技術がないのでWindowsアプリしかできません。PC持ってない人はすいません・・(^_^;

FTPとは何か?

FTPって何のことか知らない人もいると思うので、一応説明しておきます。FTPとはFunctional Threshold Powerの略で、ライダーが1時間連続して出力できる最大パワーと定義されています。つまり1時間というある程度長い時間持続可能なパワーということですから、ライダーの持久力を反映し、レースでは戦闘力を評価する指標となります。理論的にはFTPがわかると所要タイムを推定することが可能です。したがってトレーニングの目的はFTPを上げることが最も効果的なわけです。

実際のFTP測定では、気象条件などの影響を避けるため実走ではなく固定ローラーを用いるのが望ましいとされています。しかし1時間も連続して全力で固定ローラーを漕ぐというのは相当大変なことですよね。そこで簡易的な測定法として、20分間全力で漕いだときの平均パワーを測定して、それに0.95をかけたものをFTPとするという方法が確立されています。

パワーウェイトレシオとは何か?

FTPはライダーの脚力を評価する上で有用な指標となり得るのですが、一つだけ問題があります。それは重い物体を動かすほど大きなパワーを必要とするため、ライダーの体重にほぼ比例する量であるということです。これは物理法則です。ということは、FTPそのものを体格の異なるライダーと比較しても正しい脚力の判断はできないことになります。

そこで考え出されたのがパワーウェイトレシオという考え方です。略してPWRとも呼ばれます。PWRはFTPから次のようにして求めることができます。

PWR = FTP/ライダーの体重

単位はW/kgとなります。すなわち、これは体重1kg当たりのFTPを表していることになります。このようにすることにより、ライダーの体格の影響を取り除いて純粋に脚力だけを比較することが可能になります。とりわけヒルクライム力を評価する上で最も重要な指標とされます。

FTPだけ見れば体重のあるライダーの方が有利になってしまいますが、実際はそうではありません。PWRという指標で見れば、FTPが小さくても軽量なライダーの方がPWRが大きくなり、結果的にヒルクライムのタイムが速くなることは十分あり得ます。つまり軽さは正義!なのです(笑)。

「轍」におけるFTP推定の原理

FTPを測定するには簡易的な方法でも20分間、全力で自転車を漕ぐ必要があります。20分と言えども相当きついですよね。よほどマゾでなければできないでしょう(笑)。かくしてFTPを厳密に測定するのは大変な苦行なのです。

そこでこのような苦行をしなくても普段のサイクリングで収集したGPSログを利用し、統計的にFTPを推定する方法を開発しました。その原理を簡単に説明します。

まずGPSログを解析し、各時間ごとのパワーを算出します。そして横軸にパワー区分をとり、縦軸にそのパワーを継続した時間の累計をとってヒストグラムを作成します。すると一般的には下図のような山型の曲線となります。

ここでヒストグラムがピークとなるのは最も長い時間出力したパワーであり、言い換えればライダーにとって最もパフォーマンスの上がるパワー領域であると言えます。これは必ずしも平均パワーとは一致しません。

そこからさらにパワーが上がると、ヒストグラムは急激に減少していき、最大パワー付近ではほぼゼロに近づきます。すなわち、大きなパワーは長時間持続して出すことができないことを意味します。これはライダーの体感としてわかるでしょう。最大パワーというのはほんの数秒しか出せない瞬発的なパワーということになります。

FTPの定義に戻って考えますと、ある程度長い時間持続することが可能なパワーということですから、どこかで線を引いて、そのときのパワーをFTPとしてやれば良いわけです。どこで線引きをするかが問題ですが、ここでは継続時間がピーク値の0.6倍になるパワーをFTPとすることにしました。言い換えれば、ライダーのパフォーマンスが最大時の0.6倍に落ちるようなパワーをFTPとするわけです。

ここで0.6倍としたことには明確な根拠があるわけではないですが、これは正規分布という考え方に基づいています。ヒストグラムが正規分布に従うとすれば、0.6倍というのはちょうと標準偏差の範囲にあたります。ですからパフォーマンスが0.6倍に落ちるパワーというのは、ライダーがある程度の時間継続して出せるギリギリのパワーであるとみなすには妥当性があると思われます。もちろんこれは厳密ではありませんが、大筋では間違っていないだろうと思います。

脚力レベルについて

「轍」では推定されたPWRに基づいて脚力レベルを次の6段階に区分しました。これはつよポタミアさんが書かれた「ホビーレーサーの剛脚ピラミッド」という記事を参考にしています。貴重な情報ありがとうございました。

剛脚:4.5W/kg以上
優脚:4.0~4.5W/kg
良脚:3.5~4.0W/kg
並脚:3.0~3.5W/kg
低脚:2.5~3.0W/kg
貧脚:2.5W/kg未満

使用方法

「轍」にGPXなどのログファイルをインポートして「トラック」タブを開きます。目的のトラックを選択した上で、右上にある「パワー/FTP推定」ボタンをクリックします。

するとパワー解析結果に加えて、FTPとPWR、それに脚力レベルがダイアログに表示されます。


これは僕のデータです。はい、もれなく貧脚判定されました(笑)。

正確に測定するためには?

ここで表示されるFTPやPWRはあくまでも推定値ですから、実際にパワーメーターで測定した値とは若干異なることがあります。できるだけ正確に測定するためには以下の点に留意して下さい。

体重・車重は正確に設定して下さい

「オプション」→「パワー解析の設定」を開きますと、次のような設定画面があります。パワー解析を行う前に、必ず設定しておかないと正確な解析はできません。

ここで重要なのは体重と車重です。他の項目はとりあえずデフォルトのままでも構いません。体重はPWRの計算で使いますから、純粋にライダーの体重だけであることが理想的です。厳密に言いますと、シューズやヘルメットの重さ(できればウェアも)は自転車の側に含めた方が正確となります。

また車重ですが、これは自転車本体だけでなく、ライトや工具など普段走っているときの装備をすべて含めた重さで量って下さい。ボトルにも水を半分くらい入れて下さい。自転車を乗り換えたときは、その都度設定を変える必要があります。

できるだけ頑張って走って下さい

当たり前ですが、ポタリングペースで走ってもそれなりの結果しか出ません。全力とは言いませんが、ある程度頑張って走って下さい。

ヒルクライムの上り区間だけが最も正確に測定できます

平坦や上り下りを含むコースよりも、上り区間だけにした方がより正確に測定できます。平坦地では風の影響を大きく受けますが、上り区間では空気抵抗に比べて重力が圧倒的に大きいため、風の影響を無視できるからです。

できるだけ止まらないで下さい

信号で短時間停止する程度は構いませんが、食事などで長時間休止すると全体のパワーが下がり、正確に測定できない可能性があります。

ある程度長時間走って下さい

パワーの継続時間の統計を取っていますので、あまりに時間が短いと正確に測定できません。最低でも1時間以上走ることが望ましいです。

ログの取得間隔はできるだけ細かくして下さい

Garminなどログの取得間隔を調整できる機種では、できるだけ細かくログを取った方が正確な結果が得られます。可能であれば1秒単位で取ることが理想的です。

できるだけ気圧計内蔵のGPSを使って下さい

一般的にGPSの高度は精度が落ちるため、細かい錯乱が生じてログが乱れます。高度が凸凹していると実際より獲得標高を大きく見積もってしまうため、パワーが高めに出る傾向があります。誤差の少ない気圧式高度計を使った方が正確な結果が得られます。どうしてもGPS高度しかない場合は、「オプション」→「詳細設定」の「高度平均化間隔」を大きめ(200mくらい)に設定すると多少は緩和されるようになっています。

SNS拡散を求む!(笑)

2年前にパワー解析機能を実装したときもそうですが、苦労して開発した割に全く反響がないので開発者はやる気をなくしています(笑)。スマホに押されて「轍」は瀕死状態です。誰か流行らせてくれませんか?(笑)

片雲の風に誘われて