大又から薊岳・明神平へ

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登山

■コースタイム
大又浄水場=0:15=笹野神社=0:40=古池辻=0:50=大鏡池=1:00=薊岳=1:00=三ツ塚分岐=0:10=明神平=1:00=林道終点=0:45=大又浄水場【total 5:40】


 昨年の5月に初めて明神平を訪れてからずっと登りたいと思っていた薊岳。今日は朝から雲一つない快晴だ。先週の真夏のような蒸し暑さとは打って変わってさわやかな五月の陽気で、年に何回あるかという絶好の登山日和である。行きたいところがいっぱいあってどこに行こうか迷うが、新緑がきれいなこの季節にはやっぱり薊岳から明神平へのコースがふさわしいと思った。このコースは歩行距離がかなり長いが、この天気なら安心して行けそうだ。

 朝5時に起床し、6時過ぎに出発する。大又には8時前に到着した。大又には駐車できる場所がないので、大又林道に少し入って右側にある浄水場の横の広場に駐車する。このコースを行く場合は、ここに駐車すれば帰りが少し近くなるので覚えておくとよい。準備をしている間に数台の車が大又林道を上がっていくのを見送った。8時5分に浄水場を出発し、とりあえず大又のバス停まで戻る。この途中で、蝶のような形をした薄紫色のシャガの花が道端にたくさん咲いているのがきれいだった。大又には15分で到着し、ちょうど菟田野からのバスが着いたところだった。山屋らしい人が二人ほど降りてきた。

 笹野神社のすぐ横からコンクリート舗装された細い道に入ると、すぐアスファルト舗装の車道に出る。ここはとりあえず左へ登るが、少し行くと三叉路に出てどちらに行くか迷う。しかしよく見ると「薊岳」の標示があるのでそれに従って左へ進む。さっきバスから降りた単独の中年男性が早くも追いついてきた。3回目くらいの曲がり角を直進して山道に入る。後ろの男性も同じコースを行くようなので、話をしながら登る。それにしてもペースが速く、ずっと煽られっぱなしである。ここは薄暗い植林の中の急登で展望もまったくなく、ただ黙々と登る感じが強い。しばらく行ったところで分岐があったのでちょっと止まるが、赤いテープには右の斜面へ登るように書かれている。どうも直進する方が本来の道のように思えるのだが、一応赤いテープに従って右へ登る。ちょっと不明瞭なところもあるが、ずっとテープはあるので間違いないだろう。ここは植林の斜面を直接登っていくので、ものすごい急登である。やがて道が広くなると左の方からの道と合流したので、結局どちらからでも行けたのであろう。たぶんこれは近道と思われる。なおも続く急坂をもう少し登ると、前に人がいるのが見えた。しばらくしてその単独の青年に追いつき、先に行かせてもらう。ついでに後ろの中年男性には先に行ってもらう。その中年男性はものすごいハイペースで、あっという間に見えなくなってしまった。なおも黙々と登り続けると小さな道標のある場所に着く。何も書いていないのでわかりにくいが、時間から見てどうやらここが地図に載っている古池辻らしい。何の変哲もない場所である。

 古池辻からまた植林の中の急坂を少し登ると、勾配がゆるくなってほとんど平坦なところも出てくる。もう稜線に近づいたのかと思ったが、実は甘かった。ゆるくなったのも束の間、「大鏡神社800m」の標示を見てからは息もつかせぬ急登が大鏡池まで続く。この辺はまだ新しい切り株が多く、切り倒された杉が無数に転がっている。いったいどうやって下まで運ぶのだろうかと思ってしまう。植林が疎らになってくると勾配も少しゆるくなり、ようやく稜線に出る。この辺は踏跡が不明瞭で、杉の木の間を赤いテープを頼りにして進む。この辺に大鏡池があるはずなのだが、なぜか気づかなかった。どうも道から少し外れたところにあるらしい。

 大鏡池を見られなかったのがちょっと残念だったが、稜線に出ると一気に展望が開け、谷をはさんで向こう側の伊勢辻山の稜線が見えてくる。そしてまぶしいばかりの新緑の自然林に迎えられる。ブナの新緑の何と美しいことだろう。長く退屈な植林帯の登りから解放されて気分も晴れ晴れとする。ここでもう標高1200mに達しているので、あと200mほどの登りだ。足取りは軽い。道が一旦下りになるところから木の間越しに薊岳のピークが遠くに望まれ、あそこまで登るのかと思わせる。

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薊岳山頂を望む

 やがて道はヤセ尾根の岩稜となり、何回か岩をよじ登る箇所がある。こういう時にトレッキングポールを持っていると邪魔になる。薊岳が近くに見えるようになると道は笹に覆われる。そして小さなピークに登ると木の枝に「薊岳雌岳」の小さな札が付けられていた。それがなければ頂上だとは気づかないような場所である。雌岳から少し下ったところで後ろから人の足音がして、単独の青年に抜かれた。ものすごいハイペースでほとんど走っているんじゃないかと思えるほどである。一旦下って、雄岳への登りにさしかかる。雄岳はそこだけ突出したピークなので登りはかなりきつい。一見頂上のような場所に出るが、また少し下ってもうひと登りしたところが本当の頂上である。大鏡池からちょうど1時間かかった。大又からは2時間30分の所要時間だ。どうも山と高原地図の「大台ケ原」に書かれている参考タイムはどれも相当厳しいように思える。かなり速く歩いているつもりなのだが、参考タイムより少し時間がかかってしまう。よほど足の速い人が書いたのに違いない。大又からの標高差は実に1000mに達する。いかにも登ったという気にさせてくれる山である。

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シャクナゲ咲く薊岳山頂

 薊岳山頂にはシャクナゲの木があるが、まだ赤いつぼみだった。それでもきれいである。山頂からの展望は抜群で、東側が少し見えない以外は300度くらいのパノラマを楽しめる。同じ台高でも樹林に覆われてあまり展望がきかない国見山に比べるとはるかに立派なものだ。北東から北にかけては、国見山から伊勢辻山へ続く台高の主稜と、その後ろに平べったい高見山が見える。さらにその後ろに見える二つのピークはおそらく住塚山と国見山であろう。南西に目を転ずれば大普賢岳の岩峰が間近に見える。真南には大台ケ原のゆるかかなスロープが白く霞んでいる。南東にはさらに南へ続く台高の主稜が雄大である。池木屋山はどれだろうと探してみたが、ちょっとわからない。すぐ南に見える丸い山は木ノ実ヤ塚だ。新緑に覆われてとても美しい。ここで目を引くのがその稜線上を走る麦谷林道である。ずいぶん立派な林道で、舗装されているように見える。ここまで車で乗り入れれば木ノ実ヤ塚は楽に登れそうだ。山頂には座るのにちょうどよい岩があり、その上に座って昼食をとる。さっき追い抜いていった単独の青年も着いている。彼は名古屋から来たそうで、聞くと大又から2時間弱で登ってきたらしい。しばらく話していると、最初に追い抜いたもう一人の青年が登ってきた。狭い山頂には青年が3人だけ。他に登ってくる人はいない。中高年パワーに圧倒されがちな昨今の山では非常に珍しいことだ。3人でこの静かな山の良さを味わったのであった。

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薊岳より伊勢辻山と高見山を望む

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薊岳より木ノ実ヤ塚、はるか大台ケ原を望む

 名古屋の青年は先に出発し、1時間休憩して正午ちょうどに明神平に向けて出発する。薊岳から急坂を少し下るとブナ林の中のほぼ平坦な縦走路となる。稜線にはさわやかな風が吹き抜け、真っ青な空に新緑が映える。新緑はまさに今が真っ盛りで、緑のシャワーを浴びるようだ。気分は最高。ああ、来てよかった。道標はしっかりしているので道に迷うことはない。濃い緑のバイケイソウがたくさん見られる。この辺で初めて人とすれ違った。横グラ谷ノ頭を過ぎて一旦下り、再び前山への登りとなる。この登りは結構きつく、また一汗かかされる。

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新緑の縦走路

 やっと登りついた前山の頂上は笹原になっており、特に頂上という感じはしない。明神平はもう間近に見える。ここまで約1時間、素晴らしい縦走路を楽しんだのであった。笹原の中をもう少し歩くと、三ツ塚の分岐点に着く。直進すると明神岳だ。ここを左にとって明神平に向かう。バイケイソウの大群落の中を下って13時15分頃、明神平に着いた。

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明神平全景

 一年ぶりに訪れる明神平。いつ来ても気持ちの良いところだと思う。薊岳の静けさに比べるとここはずいぶんにぎやかだ。テントも一張りある。国見山に登る人がよほど多いのだろう。東屋で少し休憩する。水無山の急斜面を下ってくる人がたくさんいる。先ほど登ってきた薊岳が実によく見える。20分ほど休憩して下山を始める。ここは昨年も通った道なので状況はわかっている。少し下ったところに水場があって、水筒を満たしておく。水量は豊富だ。ここからジグザグの道がしばらく続く。勾配はゆるやかなので大変歩きやすい。この辺の新緑も素晴らしい。しかし木の橋を渡ってからは直降気味となり、勾配もきつく歩きにくくなる。この道は人が多く、抜きつ抜かれつしながらの下りとなる。少し下ると滝が現れ、斜面を巻くように下っていく。やがて道は植林帯の中となり、あしび山荘に到着するが、ここまでがずいぶん長い。あしび山荘からは渓谷沿いの道となり、何度か川を渡りながら下っていく。この渓谷がなかなか美しく、写真を撮るためだけに来るのも良さそうだ。コンクリートの堰堤を見るとまもなく大又林道終点に出る。ここまで1時間を要した。参考タイムの45分はどう見ても無理だと思われる。

 林道終点には6台の車が停まっていて満杯である。その下にも路肩駐車の列がかなり長い間続いている。ここもよほど早く来なければ終点には置けない。さて、ここからはもう散歩気分でのんびりと歩く。山肌の新緑が美しいのでまた写真を撮る。これで36枚撮りフィルムを1本撮りきってしまった。この調子で写真を撮っていたら山行も結構高くつくなと思ってしまう。やがて昨年崩壊していた場所を通ったが、崖はきれいに修復されていた。思えば昨年は土砂崩れのため林道が通行止めとなっており、長い林道歩きを強いられたのであった。これで明神平もぐっと近くなった。途中、登山者の車が何台か抜いていった。吊り橋を過ぎ、七滝八壷を見て、大又浄水場には約45分と思ったより早く到着した。時間は15時30分。そして帰りは「やはた温泉」で汗を流して帰ったのであった。やはた温泉に入るのは初めてだったが、今日は人も少なく、ゆっくりくつろぐことができた。薊岳は人と会うことも少なく、深山の雰囲気を味わえる静かな山で、台高がますます好きになった。

片雲の風に誘われて