後生掛温泉から毛せん峠・名残峠を経て玉川温泉へ

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登山

■コースタイム
後生掛温泉=1:10=国見台=0:20=毛せん峠=0:25=焼山小屋=0:15=名残峠=1:05=玉川温泉【total 3:15】

コースマップ

 一般の観光客にはほとんど知られていないが、八幡平の西方に焼山という火山があり、後生掛温泉から玉川温泉へ抜けるトレッキングコースが整備されている。途中には毛せん峠と呼ばれる景色の良い場所があり、どうしても行ってみたいと思っていた。このコースも八甲田山と同様、既に二度計画しているが、やはりいずれも雨のため敗退している。今回は三度目の挑戦となった。前日、十和田湖の南にある大湯温泉の黒森荘YHに宿泊した。天気予報によると明日の秋田県地方は文句無しに晴れの予報。そして当日、予報通り朝から雲一つない素晴らしい快晴に恵まれた。大湯温泉を8時過ぎに出発して後生掛温泉には9時半過ぎに到着。車をここに置いて帰りは玉川温泉からバスで戻ってくるため、あらかじめバスの時刻をチェックしてある。帰りのバスは玉川温泉発14:01と16:01があるが、何とか14:01のバスに間に合うためには4時間で歩き通さなければならない。コースガイドによると所用時間は3時間となっているが、休憩や写真を撮る時間を含めるとかなり厳しいスケジュールとなることが予想される。

 9時50分頃にとりあえず後生掛温泉を出発するが、登山道の入口がわからない。駐車場の奥には後生掛自然探勝路の入口があるが、そこではない。そして温泉の建物の横には焼山の大きな案内板があるのだが、肝心の登山道入口がどこにも書いていない。地図によるといったん車道側に戻ってホテル山水の横から入るように描かれているのでとりあえずそこまで歩いてみる。炎天下で早くも汗が噴き出してくる。そしてホテル山水の前に着いてみてもそれらしい標識は何も見つからない。よく見ると駐車場の奥におよそ道とは見えない細い踏跡があり、そこへ少し入ってみると背の低い標識があって「名残峠」と書かれていた。どうやらこれが登山道のようだ。ところがもう一つ問題があって、本来のルートとは別にもう一つ焼山の北側を巻いて名残峠へ至る道があり、それとの区別がつかない。地図を眺めながら行くべきか戻るべきかしばらく悩むことになる。少し進んでもう一度地図を眺めて地形から判断した結果、これで本来のルートに間違いないと確信し、どんどん登り始める。そして少し行くと「後生掛温泉0.1km」と書かれた真新しい標識があった。何と後生掛温泉から川を渡って直接ショートカットする道があったのだ。これで距離にして約1キロ、時間で20分はロスしただろう。この20分のロスが後々まで尾を引くことになる。入口の表示がないのは何とも不親切すぎる。

 後生掛温泉からしばらく木道のゆるい登りが続く。快適で歩きやすくペースが上がるが、標高はなかなか上がらない。このツケは後でしっかりやってくるのであった。木道が終わると大きな石の多い歩きにくい道となる。相変わらず勾配はゆるいままである。それにしても暑い。とても標高1000メートルを超えているとは思えない。まるで灼熱地獄だ。滝のように汗が流れる。35分ほど歩いて毛せん峠までの中間点を示す標識が現れた。毛せん峠まであと1.7キロと書いてある。しかし距離で言われても全くあてにならないのだ。予想通り、この先が厳しかった。ここまで誰にも会わなかったが、この辺で初めて高校の山岳部だろうかと思われる若者の一団とすれ違う。彼らは両手にストックを持ち、駆けるような速さで下って行った。この先だんだん勾配がきつくなるのに加えて、石が多く歩きにくくなり、ますますペースが落ちる。さらにやっかいなことにアブが非常に多く、止まるとまとわりつくのはもちろん、歩いていても自分の回りをブンブンと旋回してついてくるので非常にうっとうしい。しかもクマバチのようなでかい奴もいる。アブに追われるようにして必死で登らされるのだった。1時間ほど登った頃、女性の二人組とすれ違い、間もなく国見台と呼ばれる場所に着いた。ここからは八幡平方面の展望が開ける。ほとんど平らな八幡平とひときわ突出した畚岳との取り合わせが対照的だ。


国見台より八幡平・畚岳を望む

 ここから毛せん峠まで地図で見るとわずかな距離のように見えるが、実際はダラダラと長い登りが続く。あまりの暑さにいい加減嫌になってきた頃、急に視界がぱっと開け、思わず息を呑むグリーン一色の風景が目の前に現れた。いよいよ毛せん峠が見えてきた。それにしても何という空の青さだろう。今日の空は一点の曇りもなく限りなく澄み渡り、青というよりは群青に近い深い色である。この辺りはガンコウランの群生地として知られているが、花はまだなのか、もう終わったのか、咲いていなかった。しかし一面緑の絨毯を敷き詰めたような風景には心を奪われる。青空と緑一色の風景とのコントラストが実に素晴らしい。右手に栂森のピークが見え、その左肩に当たる部分が毛せん峠である。美しい風景に足取りも軽く、あとひと登りで毛せん峠に到着した。国見台からここまでしっかり20分はかかった。時刻はちょうど11時半。コースタイム通りである。


毛せん峠

 毛せん峠からは素晴らしい展望が開け、特に南側の展望が良い。近くには秋田駒ヶ岳がくっきりと見え、そしてはるか彼方に残雪を頂いた鳥海山の姿まで見えた。すぐ下にはこれから向かう焼山の避難小屋とそこへ続く道が小さく見えている。あまりに素晴らしい風景にしばし茫然とする。本当に来て良かった。13年来の悲願がこれ以上ないという最高の天気のもとで達成されたことを喜んだ。このままずっと佇んでいたいところだが、かなり時間がおしているのでやむを得ず10分の休憩で出発する。


毛せん峠から南西方向の展望

 毛せん峠からはゆるい下りとなり、やはり素晴らしい展望の開ける緑の草原を気分良く歩いていく。こんな道ばかりならいつまでも歩いていたいところだ。緑一色の穏やかな風景とは対照的に荒々しい火口壁を見せる焼山がひときわ印象的である。


焼山方面を望む

 一旦少し下って斜面の巻き道を行くと、約25分で鞍部にある焼山小屋に到着する。その前は小さな広場になっている。


焼山小屋

 ここから振り返るとさっき通ってきた栂森と毛せん峠がよく見える。


焼山小屋から栂森を振り返る

 焼山小屋からまた5分ほど登ると鬼ヶ城と呼ばれる場所に着く。そこを挟んで両側に小さな池が二つある。


鬼ヶ城付近の池

 鬼ヶ城には上が平らな巨岩があって、そこに登るともう一つの池が眼下に見え、上には焼山の山頂が迫る。


鬼ヶ城と焼山山頂

 鬼ヶ城から右の方へ下っていくと、焼山の肩に当たる部分から人が下りてくるのが見えた。どうやらあの辺りが名残峠らしい。それにしてもまたかなりの登りだ。強い日差しが照りつける中、ガレた急斜面を登っていく。やがて鼻を突く硫黄の臭いが立ちこめる。そして右下方に思いがけない風景が展開した。すり鉢状の火口跡に乳白色の水をたたえた火口湖が忽然と現れた。水面からは湯気が上がり、煮えたぎっているようにも見える。水はわずかに緑色を帯び、さながら草津白根山を思わせる雰囲気である。火口壁からはあちこちから噴気が上がり、地獄のような様相を見せている。この火口湖は地図には載っていなかったので意外な発見であった。


噴気を上げる火口湖

 トラバース状の斜面を登り切ったところが名残峠であった。鬼ヶ城から約10分で到着。中高年の男性グループが昼食中であった。3人で写真を撮ってくれと頼まれる。


名残峠

 ここからの展望もまた素晴らしい。南西方面には秀麗な山容を見せる森吉山が間近に見える。そして下の方にはこれから向かう玉川温泉の建物も見える。とりあえずここで昼食にするが、バスの時間が迫っているので時間は20分しかない。休憩もそこそこに12時45分、名残峠を出発する。


森吉山を望む

 名残峠からはガレた急斜面を一気に下っていく。後ろを振り返れば火口の外壁が荒々しい様相を見せている。やがて道は樹林帯に入り、傾斜はややゆるくなる。ところどころ木道も現れる。この辺り美しいブナ林で気持ちがよい。とにかく急いでいるので、5分ほど先に出発した男性グループを追い抜く。コースタイムでは玉川温泉まで1時間となっているが、下りの時間は当てにならないので急ぐに越したことはない。少し走り気味に下って約40分で水場のある沢に到着。残り少なくなった水筒の水を補給する。水を補給して少し生き返り、さらに先を急ぐ。水場から15分ほど下ると玉川温泉の自然探勝路が見えてきた。ここから階段ばかり続いてちょっとつらい。名残峠からちょうど1時間で焼山登山口の標識のある自然探勝路に合流する。しかし玉川温泉のバス停まではまだ10分近く歩かなければならない。これだけ急いで1時間かかったのだから、どう考えても玉川温泉まで1時間というコースタイムは無茶である。以前同じ山と高原地図『八幡平・岩手山・秋田駒』で乳頭山からの下りのコースタイムを信用してえらい目に遭ったことがある。この地図の下りコースタイムははっきり言って無茶苦茶である。走らなければ絶対に無理な時間が記載されているので信用してはいけない。玉川温泉のバス停には13時50分に到着。余裕で間に合った。

 14時01分発のバスで後生掛温泉に戻る。実際にはバスは少し遅れてきたが・・。30分で後生掛温泉に到着し、大汗をかいたので温泉に入っていくことにする。温泉の建物の中に入って、『焼山登山口』の標識があるのに気づいた。何と建物の中を通り抜けていくようになっているのだ。しかも標識は小さくてほとんど目に付かない場所にあり、これでは気づきようがない。登り始めるとき、念のために建物の前まで行ってみたのだが、全くこれには気づかなかった。もう少し探していれば大幅に時間を節約できたのだが・・。何という不親切だろうか。そして温泉はもう最高と言うしかない。風格のある木造の浴場は湯治場の雰囲気満点だ。白く濁ったお湯はいかにも温泉らしくて良い。名物の箱蒸し風呂のほか、サウナや露天風呂、泥風呂、打たせ湯などもあり、いろんなお湯をゆっくりと楽しめる。これだけの内容で400円とは安い。顔だけ出して入る箱蒸し風呂は一度は試してみる価値がある。サウナとは違って頭が暑くないので長く入っていられる。温泉の中には『毛せん峠の湧水』が引かれていて、冷たくてうまい。この日は八幡平YHに宿泊。夕方までずっと晴れていたので、アスピーテラインを走っていると岩手山がくっきりと見えていた。

片雲の風に誘われて