ホイールは軽ければ良いというものではない

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パーツ自転車

1月頃から突然ホイールを変えたい欲が沸いてきまして、いわゆる無限ループ状態に陥ってしまいました(爆)。ホイールって安いのから高いのまでたくさんあるけど、何を選んだらいいのか? それ以前にホイールを変えたら効果あるのかどうか? それを考え出すといつまでも結論は出ません。過去の経験から、知識がない状態で買っちゃうと必ず失敗するに決まっている。そこでいったんペンディング。

お恥ずかしい話ですが、僕はホイールなんて軽いほど良いくらいにしか思ってませんでした(笑)。あまりにもホイールの知識がなさすぎたので、それからホイールについてお勉強しました。そしてホイールについて研究すればするほど、ホイールというものは奥が深いということがわかってきました。これは沼だ!(笑)

そこで自分がホイールについて研究したことをここでいったん出してみます。同じように悩んでいる人の参考になるかどうかはわかりませんけど。

「ホイールを変えたら走りが変わる」は本当か?

これロードバイクにはまった人が必ず言うセリフですが、ホイールを変えると速くなるとか、上りが楽になるとか言われると自分も変えてみようかな?という気になってしまう悪魔の囁きですね(笑)。

確かにいろんな人のブログやYouTubeなんかを見てますと、ホイールを変えたら劇的に走りが変わった、走るのが楽しくなったと言ってる人が多いのですが、それって本当かな?と少し眉に唾を付けて聞いてしまうのです。

というのは、こういうのは極めて主観的なものですから、個人の脚力や走行環境によって左右されるところが大きいと思うのですね。だから他人の感想というのはあてになりません。実際、ホイールを変えても違いがわからないという人もかなりの割合で見受けられます。そういう意見も決して無視できないと思うのです。たぶん僕みたいなド貧脚は違いがわからない方のグループに入るんでしょうね・・

これは想像ですが、劇的に変わったという人の多くはプラシーボ効果が相当入っているんだろうなと思います。だって高級なホイールになると軽く10万円以上、20万円台もザラにあるんですよ。それだけの金額を注ぎ込んだんだから速くなるに決まっている、いや速くなってもらわないと困るという思い込みが必ずあるはずなのです。それで普段以上に頑張ってしまうという心理的な効果は必ずあるでしょうね。

でもホイールの重量の差ってせいぜい数百グラムのものですよ。ボトル1本分よりも少ないくらい。それでそんなに劇的に変わるのか? ここでは心理的な影響を無視して、純粋に科学的に検証してみたいと思います。

WH-R501は鉄下駄ではない

今乗っているFARNA SL2には純正のホイールとしてシマノのWH-R501が装備されております。これはシマノの最廉価ホイールでして、前後で1万円程度、重量は約1900gというものです。その重さから巷では「定番の鉄下駄」と揶揄されることが多いホイールです。

しかしWH-R501は本当に鉄下駄でしょうか? 僕はロードを始めた28年前からずっと完成車に付属のホイールだけで乗ってきました。測ったことはありませんが、こういうメーカー純正の手組ホイールってたいがい2200g前後あるのが普通で、中にはもっと重いのもあるかもしれません。でもそれで普通に100km走ったり、ヒルクライムしたりしてたわけですよ。そもそもホイールを交換しようという発想さえなかったですね。

こういうクソ重い純正ホイールこそ本物の「鉄下駄」と呼ぶべきものであり、WH-R501は僕に言わせれば「軽量ホイール」です(笑)。だって純正ホイールより300gも軽いんですから。以前乗っていたクロモリロードでも純正からWH-R501に交換しましたが、めっちゃよく走ると思いましたよ。だから純正ホイールではなくWH-R501を基準にすると、ホイールに対する見方がかなり厳しくなってしまうんですね。おそらくWH-R501から数百グラム軽くなっただけで違いを実感することは難しいだろうと容易に想像できてしまうのです。

ホイールの性能とは?

ホイールのスペックではとかく重量ばかりが注目されますが、ホイールの性能を決める要素はそれだけではありません。単に軽さばかりに目を奪われていると、思ったより走らなくて落胆することにもなりかねません。

重量

ホイールのスペックで誰もが真っ先に見るのは重量でしょう。なぜなら重量というのは誰にもわかりやすい指標だからです。どんな素人でも重さを測って客観的に確認することができますから間違いようがありません。だからホイールのメーカーは重量を少しでも軽くすることにしのぎを削っているわけです。

一般的にホイールの重量は前後ペアで表されますが、概ね2000g以上が鉄下駄、1800g前後がエントリークラス、1600g前後がミドルクラス、1400g以下がハイエンドクラスという分類になるでしょう。ホイールの価格というのはフレーム以上に重量に敏感で、およそ200g軽くなるごとに倍々で高くなっていく感じです。

しかし重量というのはホイール性能の一面でしかありません。軽い割に走らないホイールとか、重いのによく走るホイールというのも存在します。後述しますが、仮に重量が同じだとしてもその内訳が重要なのです。

剛性

重量に比べて剛性というのは非常にわかりにくい概念です。特に素人は剛性の違いを感じることは困難でしょう。剛性というのはわかりやすく言えば、物体の変形のしにくさを表していると考えられるでしょう。剛性が高いということは変形しにくいということです。

剛性が低いとどうなるかというと、せっかく加えた力がホイールを変形させるために使われてしまい、前には進まなくなります。ですからいくら軽くても剛性の低いホイールは踏んでも進まないホイールになってしまうのです。そういうことはスペックからはわかりませんから、素人には判断が難しいのですね。

空気抵抗

ホイールというのはロードバイクの中でも非常に空気抵抗を受けやすいパーツです。タイヤにぶつかった空気が後ろに流れるとき、リムの後ろ側に渦が発生し、それが抵抗を生む元になります。そこでリムを縦方向に延ばし、断面を飛行機の翼形状にすることで空気の流れを整え、渦を発生しにくくしたものがエアロリムとかディープリムと呼ばれるものです。

普通に考えるとリムを深くすればかえって空気抵抗が増えそうな気がしますが、実際は逆なのです。またリムを深くした分、相対的にスポークが短くなりますからスポークの空気抵抗も軽減され、剛性が増すという利点もあります。だから特に平地ではディープリムの有用性が注目されています。

しかし当然ながらリムを深くするということは重量増につながります。見た目のインパクトでディープリムに憧れる人は多いですが、アルミでそれをやるととんでもなく重くなってしまうため、ほぼカーボン一択と考えてよいでしょう。またディープリムのエアロ効果というのは35km/h以上でないとほぼ体感できないため、そんなにスピードは出さないよという人には意味がありません。

回転性能

ホイールの回転軸で生じる抵抗は純粋にロスとなりますから、小さければ小さいほどよく転がるわけです。よく回るホイール、回らないホイールというのは確かに存在します。回転性能はハブの性能で決まり、高精度なベアリングを採用したハブほど抵抗が小さいと考えられます。もちろんその分、価格も高くなります。

カタログスペックの読み方

リム

リムはホイールの最外周部にあるため、運動性能に最も大きく影響するパーツです。そのため、できるだけ軽量であることが望まれます。ただしリムの重量は公表されていないことがほとんどです。ママチャリなどごく低価格なものを除き、一般的なスポーツサイクルでは材質はほぼアルミかカーボンかどちらかです。

リムを軽くするには肉厚を薄くすればよいわけですが、あまり薄くしすぎると強度が落ちるため限界があります。アルミリムではホイール重量がだいたい1400g程度が限界であり、それより軽くするにはカーボンリムにするしかありません。当然、価格が一気に跳ね上がります。

リムで注目されるのはまずリムハイトです。要するにリムの高さですが、これが高いほどエアロ効果が大きくなります。一般的には40mm以上あるものをディープリム、30mm前後をセミディープリム、24mm以下をローハイトリムと呼ぶようです。ただリムは高ければよいというものではなく、高いほど重くなります。エアロ効果は35km/h以上でないと有効でないため、ヒルクライムには重いだけで全く意味はありません。見た目ではなく、目的を考えて選びましょう。

最近主流になってきたものにワイドリムというものがあります。これは25Cタイヤの標準化に合わせて出てきたもので、リムの内幅が17mm以上であることを特徴とします。最近では19mmが主流になりつつありますね。それに対して従来のリムはナローリムと呼ばれ、内幅は15mmとなっています。

ナローリムは主に23Cタイヤの装着が前提とされていました。もちろん25Cを装着することも可能ですが、そうするとタイヤが縦方向に伸びた形になり、タイヤの変形量が大きくなってしまいます。そのことが接地抵抗を増大させるため、リムの幅を2mm拡げて25Cタイヤに最適化したものがワイドリム、あるいはC17と呼ばれる規格です。リムの幅が広がることによってタイヤの断面が真円に近くなり、変形量が少なくなるとともにコーナリング時の安定性も向上するとされています。短所としては、リムが重くなってしまうことです。

原則としてワイドリムには23C以下のタイヤの装着は推奨されていません。タイヤが脱落したりする恐れがあるからです。ですからどうしても23Cを使いたければナローリムを選ぶ必要がありますが、最近ではほとんどのメーカーがワイドリムに移行してしまったため、現状では選択肢が少ないです。例外的にシマノだけは今でもナローリムをメインに展開しています。なおシマノではワイドリムでも23Cの使用は公式に可としていますので、使っても問題はありません。

もう一つ、リム構造で重要なものにクリンチャー、チューブレスレディ、チューブレスというものがあります。このうちクリンチャーは最も一般的なチューブを使用するタイヤを装着するもので、チューブレスタイヤを使用することはできません。

一方、チューブレスレディとチューブレスはどちらもチューブレスタイヤに対応していますが、クリンチャーで使用することも可能です。ややこしいのですが、チューブレスレディというのはタイヤの気密性確保のために専用のリムテープとシーラントの使用が必須であるのに対し、チューブレスというのはリム自体が気密構造になっているためリムテープもシーラントも不要という違いがあります。

当面クリンチャーしか使わないとしても、チューブレスレディやチューブレスを選んでおいた方が将来的にチューブレスタイヤも使えて得なような気がしますが、実はそうではありません。一般的にチューブレスレディやチューブレスのリムにクリンチャータイヤを使うと填めるのが固いという欠点があります。自分もそうですが、チューブレスなんて一生使わないよという人はクリンチャー専用リムを選んでおいた方が無難です。

ハブ

ハブの材質は明記されていないことが多いですが、安価なものではほぼスチール、ミドルクラス以上だとアルミということが多いです。さらにハイエンドになるとカーボンになったりします。当然、高価なものほど重量は軽くなりますが、実はハブの重量というのは運動性能にほぼ影響しないため、あまり気にしなくてもOKです。せいぜいバイク全体を軽くすることくらいの意味しかありません。

ハブで重要なのは、ベアリングの方式です。大きく分けてカップアンドコーン式とシールドベアリング式があります。このうちカップアンドコーンというのは下ワンと玉押しで金属のボールを挟み込む構造、シールドベアリングというのは密閉されたリング状のベアリングを回転軸にはめ込んだものです。どちらを採用するかはメーカーのポリシーによるところが大きいですが、同じメーカーでもグレードによって変えることがあります。

高精度なベアリングを使用した場合、回転性能自体はシールドベアリング式の方が良いかもしれませんが、長年使用していると摩耗によって劣化していきます。そうするとベアリングの交換が必要になりますが、補修部品自体が結構高価な上、圧入などの面倒な作業を必要とするためメンテナンス性は良くありません。

その点、カップアンドコーン式であればハブレンチで簡単に分解でき、中のボールを取り出して洗浄、グリスアップすることによりいつまでも良好な状態を保つことができます。メンテナンス性の良さがカップアンドコーン式の最大の魅力です。

スポーク

スポークには大きく分けて2つのタイプがあり、一つはJベンドスポーク、もう一つはストレートプルスポークと呼ばれるものです。

このうちJベンドスポークはハブに接続される根元の部分が90度折れ曲がったもので、アルファベットのJの字に似ています。首折れスポークとも呼ばれることもあります。比較的安価なホイールに採用されているのはほとんどがこのタイプです。利点としては汎用性があるので入手が容易なこと、欠点は曲がった部分が折れやすいことです。

一方、ストレートプルスポークはその名の通り真っ直ぐな一本の棒になっており、ハブに対して垂直に取り付けられます。これは比較的上位の完組ホイールに採用されることが多いです。利点としてはスポークテンションを上げやすいので剛性が高くなること、欠点は専用部品になるため入手性が良くないことです。

スポークの材質はほとんどの場合スチール(ステンレス)が多く、一部のハイエンドモデルではアルミが使われたりします。アルミの方が軽くて剛性が高いという利点がありますが、一方で衝撃がまともに伝わるため乗り心地が悪いという欠点もあります。

もう一つ、スポークには一般的なラウンドスポークとエアロスポークと呼ばれるものがあります。ラウンドスポークというのは通常の丸断面で、安価なホイールではほぼこのタイプになります。一方、エアロスポークは断面が扁平した長方形の形状をしており、俗に「きしめんスポーク」と呼ばれることもあります。当然、空気抵抗を軽減することが目的ですが、スポークの空気抵抗はそれほど大きくなく、しかも35km/h以上でないと効果はほとんどわかりません。まあほとんど気持ち的なものですが、剛性が上がるという副次的なメリットもあり、何より見た目がかっこいいので憧れる人が多いです。

スポークには本数と組み方というものもあります。一般的にはフロントの方が本数が少なく、だいたい16~20本程度、リアは20~24本程度というのが一番多いです。本数が少ないほど軽く、空気抵抗が小さくなる利点があります。ただしディスクブレーキ専用ホイールではそんなに本数を減らすことができないため、前後とも24~28本になることが多いです。

組み方にもさまざまなパターンがあり、最もオーソドックスなのはフロントがラジアル組み、リアが2本クロス組みというものです。これもディスクブレーキ専用ホイールでは強度的な制約から前後ともクロス組みにしかできません。

リアホイールは構造的に左右非対称となるため、左右のスポークにテンション差が生じます。それを補正するため、駆動側のスポークを多くして、反駆動側のスポークを減らした2:1組みあるいはオプトバル組みというパターンも存在します。カンパニョーロ独自のG3組みもこの一種になるでしょう。これを採用しているのはある程度上位のモデルに限られますが、横方向の剛性が向上し、振れが出にくくなるという利点があります。

手組と完組

よく手組ホイール、完組ホイールという言葉を聞きますが、これはなかなか定義が難しい言葉ですね。一般的なイメージとしては自転車屋で組んでもらうのが手組で、工場で大量生産しているのが完組という感じでしょうか。

しかしこれは正確ではありません。本質はどこで組んでいるかということではなく、専用設計であるかどうかです。手組ホイールというのはリム・ハブ・スポークなどの汎用部品を集めて組まれたものであるのに対し、完組ホイールとは全てが専用設計された部品を用いて組まれたものというのが正確な定義になると思います。

これはどちらが優れているということではなくて、専用設計であるかそうでないかの違いだけです。ただ一般的な傾向で言えば、同じ価格帯であれば完組ホイールの方が高性能になりやすいということは言えます。というのは、専用設計にして工場で大量生産することによりコストを抑えられますから、手組ホイールでは価格的になかなか太刀打ちしにくいのです。

ちょっとややこしいのは完成車付属のホイールや完組ホイールとして販売されている一部のホイールセットの中にも手組に近いものが存在するということです。どういうことかというと、リムはメーカー独自(実態はOEMであることが多い)のものを使っていますが、スポークやハブは汎用品であるという場合です。これなどは実質的に手組ホイールであるものを完成品パッケージとして売られているに過ぎません。非常に乱暴な言い方をしますと、見分け方としてはスポークが首折れであるかどうかでしょう。比較的安価なのに超軽量なホイールはこのタイプが多いです。別にそれが悪いというわけではありませんが、ただ重量を軽くすることだけが目的の場合も多いので注意が必要です。

慣性モーメントと等価質量

ホイールの性能を語る上で最も重要な概念に慣性モーメントと呼ばれる物理量があります。これはわかりやすく言いますと、物体の回しにくさ・止まりにくさを表す量です。慣性モーメントが大きいほど回すのに大きな力が必要で、回しにくく、止まりにくくなります。

物理的な定義としては、慣性モーメントは質量に比例し、回転半径の2乗に比例します。非常に単純な例で言いますと、ひもの先に重りを付けてグルグル振り回す場合を考えます。このとき重りの質量をm、ひもの長さをrとしますと、慣性モーメントIは次の式で表されます。ここではひもの重さは無視できるものとします。

I = mr2

これをホイールの場合に当てはめますと、もしホイールの全質量が最外周に集まっていたとすると上の式の通りになりますが、実際のホイールではリムとスポークとハブがあって、質量が全体に分布しているためそんなに単純ではありません。正確に求めるには、ホイールを同心円方向に細かく分けてそれぞれの質量を求め、その場所の半径の2乗をかけて合計したものが慣性モーメントとなります。実際に測定するには、ホイールにひもを巻き付けて重りが落下する時間を計ったり、左右に揺らして振り子の周期から求める方法があります。雑誌などのレビューで各種ホイールの慣性モーメントが公開されていることもあります。

一般的なホイールでは、重量の分布はリムが55%、スポークが15%、ハブが30%程度であると言われています。このうちハブは回転の中心にあるため慣性モーメントにはほとんど寄与しません。スポークも全体の割合から見ると小さい上に、中心から外周まで均等に分布しているため、慣性モーメントには大きな影響を及ぼしません。したがってリムの重さだけを考慮すればほぼ十分となります。リムの重量が既知である場合、リムを単純な円筒形とすればホイールの慣性モーメントは近似的に次の式で求めることができます。ここでmはリム重量、aはリムの外半径、bはリムの内半径とします。

I = (m/2)×(a2 + b2)

単位はkg・m2あるいはg・m2となります。一般的な700Cホイールでは80g・m2前後の値となることが多いようです。当然ながら、慣性モーメントが小さいほど回しやすく、言い換えれば加速性が良いということになります。その反面、いったんペダルを止めるとスピードが落ちるのも早いので巡航性は悪いと言えます。

慣性モーメントは半径の2乗に比例しますから、小径車では劇的に小さくなるということを覚えておいて下さい。よく小径車は漕ぎ出しが軽いと言われるのはそのためです。その代わり、ペダルを止めるとすぐスピードが落ちてしまうので、速度の維持は難しくなります。

次にもう一つ重要な概念として、等価質量と呼ばれるものがあります。これは物理的には慣性モーメントを作用点の半径の2乗で割ったものと定義されます。具体的に言えば、自転車の場合は作用点とは接地面すなわちタイヤの最外周になります。これは700x23Cタイヤの場合、およそ335mmとなります。

ホイールを浮かせて手でタイヤを回してやるとわかりますが、ホイールが加速するときには必ず重さを感じます。つまり自転車が静止していたとしても、ホイールを回転させるために余分な力が必要になるのです。このときの重さを等価質量と呼びます。これは加速するときのみ発生し、一定速度で回っているときには消滅します。そういう意味で加速するときだけ発生する「仮想の」質量であると考えることができます。実際に自転車が加速しているときには、自転車自体の重さに加えてこの等価質量が加わっているのです。

最初に慣性モーメントは半径の2乗に比例すると言いましたが、等価質量はそれを作用点の半径の2乗で割ったものです。タイヤの外周はリムより少し大きいですから、等価質量はホイール自身の重さより必ず小さくなります。自転車が加速するときに感じるホイールの重さは「ホイール自身の重さ+等価質量」となりますが、これは理論的にホイール自身の重さの2倍を超えることはあり得ません。ここが非常に重要なポイントなので覚えておきましょう。

異様に軽いホイールの落とし穴

ホイールの重量というのは価格相応ですから、価格帯によってだいたい相場というものがあります。たとえば5万円クラスのホイールなら1600g前後という感じです。しかし、たまに同じ価格帯で1400g台のホイールがあったりします。中には3万円というのも見たことがあります。普通に考えればものすごくコスパが高いのでお買い得な気がしてしまいます。

素人はたいがい重量しか気にしていないので、こういうのに飛び付きがちですが、これはよく考えないと思わぬ落とし穴があります。それは重量の分布をまったく考慮していないからです。ホイール自身の重量がまったく同じだとしても、重量の分布によって慣性モーメントは大きく変わります。つまりリムが軽いのか、ハブが軽いのかによって実際の走行感覚は全く異なるのです。

慣性モーメントを小さくするにはリムを軽くすることが最も有効ですが、あまり薄くすると強度が落ちるため軽量化には限界があります。それに比べてハブやスポークを軽量化する方が簡単なのです。安価なホイールによく使われているスチールのハブをアルミにするだけで劇的に軽くできますし、スポークも限界まで細くすれば軽量化することができます。しかしそういうことをして軽量化したとしても、中心部が軽くなるだけなので慣性モーメントは小さくなりません。その代償として、剛性が落ちて踏んでも進まないホイールになってしまいがちです。

この手の軽量ホイールはバイク全体を軽量化したいなら意味がありますが、運動性能にはさほど効果がありません。個人のレビューもいくつか読みましたが、やはりバイクを持ち上げると軽いが、走行感はさほど変わったようには思えないという感想が多かったです。ですから見かけの軽さだけで飛び付くのは考えものなんですね。

「ホイールの軽量化は10倍の効果がある」はオカルト伝説

本記事で一番言いたかったのはここです(笑)。よく「ホイールの100gは車体の1kgに匹敵する」ということを真顔で言う人がいます。だからホイールには投資する価値があるよ、と。もちろん実際に計測したわけではなくて、体感としてそう言っているのでしょう。しかしこれはちょっと考えると明らかな誇張であることがわかります。たとえばホイールを400g軽量化したとして、その説が正しいとすると4kgの軽量化に匹敵するわけですが、9kgのバイクがいきなり5kgになるなんてことはいくら何でもあり得ないでしょ?

等価質量という考え方をしっかり理解できた方にはもうおわかりでしょう。自転車が加速する際にはホイール自身の重さに加えてホイールを回転させるための等価質量というものが加わりますが、その合計量はホイール自身の重さの2倍を超えることは理論的にあり得ません。つまりどんなに大きく見積もっても2倍以下なのです。

実際のホイールはリムに全質量が集まっているわけではなく、ハブやスポークもそれなりの重さがありますから、等価質量はそれよりもっと小さくなります。一般的な700Cホイールでは等価質量を含めた重さはホイール自身の重さの1.3~1.6倍であることがわかっています。大ざっぱに言えば約1.5倍と考えて間違いありません。ホイール軽量化の効果ってたったそれだけなんですよ。そのことは下の本の中にきっちり書いてあります。

若干難解ではありますが、とてもためになることが書いてあるので、興味のある方は読んでみることをおすすめします。

ですからホイールの軽量化は10倍の効果があるなんて言うのはとんでもないデマなんですね。それを信じてるとあまりの効果のなさにガッカリすることになりますよ(笑)。こういう珍説を流布する人は科学的にあり得ないことを言っているので、完全にオカルトの域を出ていません。いや案外、これは業界が仕組んだ陰謀なのかもしれませんね(笑)。

「漕ぎ出しが軽い」が体感できないワケ

軽量ホイールでよく言われるのは「漕ぎ出しが軽い」ということです。それはもちろん慣性モーメントが小さいからなんですが、どうも僕には体感としてピンと来ないんですね。というのは圧倒的に慣性モーメントが小さいはずのミニベロでも漕ぎ出しの軽さを感じないからです。

ミニベロは漕ぎ出しが軽いと誰もが口を揃えて言いますが、僕にはどうもわからない。なぜなんだろう?と思ってたら、ある習慣に気が付きました。僕は止まる前にギアを思いっきり軽くする癖があるんですね。だいたい大きい方から3枚目か4枚目くらい、今のロードバイクで言うと24Tとか21Tのあたりです。貧脚はそこまで軽くしないと発進できないのです(笑)。

だからもともと軽いギアで漕ぎ出しているので、ミニベロだろうが漕ぎ出しの軽さはわからないわけです。たぶん重いギアでも発進できる剛脚の人だけが漕ぎ出しの軽さを体感できるのでしょうね。これで納得できました。

逆に言えば、止まる前に必ずギアを落とすことを怠らなければ漕ぎ出しの重さは問題にならないということですね。案外、11速を使っている人には面倒なことなのかもしれません。でも9速や8速ならそんなに変速しなくて済むので、これは全然大した手間じゃないんですよ。

重いホイールにもメリットはある

一般的にホイールは軽いほど良く、重いホイールには価値がないように思われていますが、実はそうではありません。重いホイールは慣性モーメントが大きいため、ペダルを止めても速度を維持しやすくなるメリットがあります。つまり巡航性能が高いということです。もちろん加速性は劣りますが、平地をゆっくり流すロングライドには重いホイールの方が有利とも言えるのです。鉄下駄なんて言ったらホイールに失礼ですよ(笑)。

また重いホイールは無理に軽量化されていない分、頑丈でもありますから、少々無茶な使い方をしても壊れません。僕みたいにグラベル走るような人には重いホイールの方が安心といえます。

軽量ホイールは上りが楽になるのではない

そもそもホイールを交換する動機って何でしょう? その中には「上りが楽になる」ということが大きいと思います。ホイールを変えたら羽が生えたみたいにスイスイと坂を登れる? そういう魅惑的な言葉を真に受けて、つい手を出しちゃうのですね(笑)。

でも現実はそんな甘いものではありません。ホイールを変えたところで上りは決して楽にはなりません。ただ速くなっただけです。よくギア1枚分軽くなったとか言いますが、結局ギアを1枚上げちゃうわけだから楽になったのではなく、速くなっただけなんですね。

ちょっと考えてもみて下さい。上り坂がしんどいのは人類共通ですから、どんな高級ホイールを使おうが楽になるわけではありません。モーターなんて付いてませんからね(笑)。もし本当に楽をしたいのなら、e-bikeを買った方が幸せになれますよ(笑)。

ホイール軽量化の効果

ホイールを軽くすれば理論上、タイムは短くなります。競技志向の人にとってはそれが最大の目的でしょう。では具体的にどのくらい速くなるのか見積もってみましょう。

「軽量化すれば速くなる」のウソを暴く
ロードバイクにまつわる常識は実に多くありますが、中でも最たるものは軽量化でしょう。軽さは正義と言われて絶対的に価値あるものとされています。自転車を軽くすれば速くなると信じているロード乗りの何と多いことか。これはほとんど信仰に近いもので誰も疑...

上の記事で書きましたが、ヒルクライムのタイムはパワーが同じだとすれば質量に比例することがわかっています。これは物理法則ですから絶対に正しいのです。ここで言う質量とは自転車の重量とライダーの体重を合わせたものです。仮に体重が60kgとして自転車が9kgだとしましょう。すると合計の質量は69kgです。

ここで仮にホイールを前後で400g軽量化したとしましょう。ホイールの等価質量が1.5倍だと仮定すれば、これは車体を600g軽量化したのと等価になります。この600gが全体の何パーセントに相当するかというと、0.6kg/69kg = 0.87%に過ぎません。ヒルクライムのタイムは重量比だけ短縮されますから、理論的には0.87%だけ向上するわけです。たとえば標準30分のヒルクライムだとすると、15.7秒だけ速くなる計算になります。純粋な軽量化の効果はたったそれだけなんですよ。もちろん高性能ホイールは軽さだけでなく剛性の高さもありますから、それで速くなる可能性はありますが、軽量化ほど大きな違いはありません。

人間はメンタルな生き物である

上の考察に対して、「いや自分はホイールを変えたらタイムが5%くらい向上した」と反論する人がいるかもしれません。まあ気持ちはわかりますが、出せるパワーが同じだと仮定すれば、それは理論的にはあり得ないんですね。そういう人は本人が意識しなくとも普段より頑張っちゃったから速くなっただけなのです。だって大枚はたいて買ったのにタイムが下がったら嫌でしょ?(笑) だから必死で頑張るのです。高価なホイールを買ったという高揚感や満足感による暗示効果が普段は出せないパワーを発揮させます。それがプラシーボ効果というものです。結局、ホイール軽量化の効果って科学が2割、残りの8割はメンタルだろうと僕は思っています。

また人間は機械と違って疲労するということを忘れてはなりません。疲労すればするほど出せるパワーは下がっていき、パフォーマンスが低下します。軽量化の効果がたとえ微々たるものであっても、それが長時間にわたって積み重なると疲労が軽減され、パフォーマンスの低下を抑えることができます。短時間では実感しにくくても、ロングライドになると理論値以上のパフォーマンス向上につながることは当然あるでしょう。

コスパがすべて

上で見積もったように、ホイール軽量化の効果は純粋な科学としては微々たるものです。でもそれを必要とする人は必ずいます。たとえばレースで優勝したいとか、キャノボに挑戦したいという人にとってはその数十秒がとても大事なものになります。たとえ何十万円かけたとしても、それで優勝できたらその人にとっては価値があったということになります。タイムが何秒速くなった、遅くなったと日々一喜一憂している人にとっても、労せずしてタイムが向上するなら価値があったということになるでしょう。

でも自転車の楽しみ方は競技だけじゃないんですよ。きれいな景色を楽しんで写真を撮ったり、神社仏閣を巡って歴史を感じたり、お気に入りの公園でパンを食べたりするのも自転車の楽しみ方の一つです。そういう人にとってタイムが数十秒速くなったって何の意味がありますか? そんなもの写真1枚撮っただけで消し飛びますよ。それだけのために5万円以上注ぎ込むのは全くのナンセンス。あるとすれば所有欲を満たすためだけです。それだけのお金があったら自転車生活を豊かにすることに使った方が幸せになれますよ。

僕なんかグロスアベレージが10km/hを切ってますからね、要するに半分は止まっているということですよ(笑)。ポタラーにとって数十秒のタイム短縮は誤差のうちにも入りません。Twitterのフォロワーさんの中にも完成車の純正ホイールで100kmや200km走っている人はいくらでもいますよ。走るのが楽しすぎて交換なんか考えてもいないようですね。要は無理にホイール交換なんかしなくても本人が楽しめればそれでいいんですよ。

結局、これは個人の価値観の問題なんですよね。かけたコストに見合うだけの価値があるかどうかが全てです。僕みたいなポタラーにとっては数十秒速くなっても何の意味もないので5万円もかける価値はありません。それが僕なりの結論になります。

一番問題なのは、科学的に根拠のないデマに惑わされて、過度に期待を高めてしまうことです。そういう話を信じて高価なホイールを買っちゃうと、期待が大きいだけに落胆も大きいわけですよ。そうならないためには正しい知識が不可欠になるので、あえてこういうことを書きました。

片雲の風に誘われて

コメント

  1. romi より:

    大変面白く拝読させていただきました。

    ホイール・・大変奥が深くて高価で、検証が難しくて、それでいてプラシーボを内在させた自己満足度と虚栄心をくすぐる物はなかなか無いのでしょう。

    自動車 ゴルフ道具 ブランド物 どれも同じような満足度をユーザーに与えてくれるのでしょうが、自転車に於いてはフレームの次位にホイールがくるのでしょうね。

    正直に考えると軽いホイールをそれなりの価格で購入するのなら、自身のウエイトを2kg落としたほうが効果があるでしょうし、大腿筋を鍛えたほうがは早くて・坂も上がりやすくなりますよね。

    サークルなんかに入るとそれなりの(収入に合わせた形になりますが)物の自転車に乗ってますが。
    見栄や張り合いや色々あって・・そのうちホイールに走って ぞん〇 だ しゃま〇 だ ぼー〇 だなんてなって行くのでしょうが、そのあたりをメーカーは突いてきてそれなりのヒエラルキー商品を開発して儲けていくのでしょうね。

    まあ走る事の楽しみから、それた形の虚栄心をくすぐる物になるのでしょうね。

    メーカが提示する高価さの指標としてウェイトを全面に出してきて高額さの証明みたいに販売してゆく訳ですが、それってホントに良いの?と感じてしまいます。

    一般の市場にある、素人が使う工業製品としての有するべき耐久性や安全性が損なわれてきていませんか?と感じてしまします。

    設計の世界で使う「安全率」と云う概念があるのですが、確かエレベータなんかは想定荷重の10倍で破断する材料 ワイヤロープなんかは6倍で破断する材料 等と決まっていて設計者は
    必ずこの基準を守って設計しているはずなんですが、ロードバイク関係は安全率何倍なんでしょうか?

    法的に基準があるはずなのですが、シマ〇 なんかはかなり余裕がある感じがあります。
    シマ〇の鉄下駄は5年ほど(2万キロ程度)乗りましたがビクともしなかった・・

    シマ〇 を卒業して最初に買った DT スイ〇 は5000k  そのあと買った ゾン〇
    は7000K位でスポーク破断が起きました。

    僕のウエイトがやや重なのは重々承知なのですが、早すぎちゃうん?と感じています。

    ロードバイクの雑誌などを見ていると、ロードバイクはレーシングマシンみたいなものだから常に点検整備を怠ってはいけないのだ・・みたいな記事がありますが、うーんなんだかな?
    自転車って所詮生活道具の延長ちゃうの?って思ってしまいます。
    わしらF1マシンは望んでないよ・・

    商売の構図として、顧客が軽量な物を望む→その声に答えて安全係数ギリギリ(もしかしたら基準を満たしいないかも?)で市場に投入→すぐに潰れるか故障する→ロードバイクは精密機械並みの加工精度と贅肉をそぎ落とした自力F1マシンだぜby業界団体→常に整備技師資格を持った ぼったく〇自転車店で点検整備をしないとロードバイク様には乗ってはいけないのだ!!by業界団体と広告宣伝費で喰ってる雑誌→それに踊らされるユーザー(あえてあおるユーチューバー)といつも高価な機材を買う羽目になるユーザー・・と云う構図かな、と思ってしまします。

    もうこのあたりで(コロ〇禍でエビデンスの何たるか・は徐々に詳らかになって来ている)
    ユーザーも貴兄の用に自分の頭で考察して往かねばなんでしょうと・・思う今日この頃でした。

  2. SORA より:

    >romiさん

    こんばんは。

    理論的にはどんな高価なホイールよりも自身の体重を2kg落とす方が効果的なんですが、なぜかそのことはほとんど言われないのが不思議な気がします。本当は無料なんですけどね(笑)。あえて業界が消費者を幻惑して隠蔽してるのでしょうか?

    コンポのグレード戦略もそうですが、ヒエラルキーを作ることによって上位への羨望を巧みに誘導し、本来必要もない高価な物を買わせて儲ける構造なのですね。それがアマチュアの場合、ほとんどが実利というより虚栄心が動機となっていることが問題で、やはり自転車雑誌や一部のユーチューバーなどが煽っていることも事実です。

    我々くらいキャリアが長いとヒエラルキーの底辺でも普通に使えることを知っているし、それで十分なことがわかっています。でもメーカーは口が裂けてもそういうことは言わないでしょうね。メーカーを取り巻くメディアもみんなグルです。上位グレードはいいぞと煽るだけです。実際は大して変わらないんですけどね。

    強度の問題に関しても同感ですね。最高級のカーボンフレームは指で押したら凹むほど薄いと聞いたことがあります。そんなんで大丈夫か?と思いますが、プロは壊れたら即フレーム交換なんでそれで問題ないらしいです。でもそれを一般人が使うのは問題ありすぎですよね。自転車って基本的に家電と同じですから、どんな使い方をされても壊れないように設計されるべきなんです。そうでないものを販売しておいて、定期的に専門店で整備しろとか、業界側の勝手な理屈で原則をねじ曲げているだけなんですよね。