1994.8.19 佐渡夏紀行(4日目)

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自転車

実走日:1994年8月19日(金)
コース:岩谷口~大野亀~鷲崎~黒姫~両津

 四日目の朝、午前5時前に目が覚めると昨夜の雨がまだ止んでいない。どうせ夕立だから一時的なものだろうと思っていたのに意外なことだった。連日カラカラ天気が続いただけに雨など全く予想もしなかった。いくら雨具の用意はあるとはいえ、最初から雨が降っていたら走りたくないので出発までに何とか止んでくれることを祈る。

 幸い7時頃には雨が上がり、晴れ間も出てきた。これで今日もまた晴れるのかなと思う。しかし、天気予報を見ると北から前線が南下してきて佐渡地方は曇り時々雨、降水確率は50%となっている。予想もしなかったことだけにしばし呆然とする。とりあえずコースを短縮したのは正解だったと思う。両津港までは少なくとも3時間くらいかかりそうなので、雨が降っていないうちに何とか両津港にたどりつきたい。最悪途中で大雨になった場合はバス輪行するため、バスの時刻を確認しておく。このあたりは佐渡でも最も交通が不便なところで、両津まで行くバスは一日2本しかない。急いで荷物をまとめ、9時前に外海府YHを出発する。

 今日のコースは全行程中で最もハードなコースだ。岩谷口から鷲崎までの約16kmの間は断崖上を走るアップダウンの連続する難路で、特にYHのすぐ前に見える跳坂(通称Z坂)は三段式で標高差100m以上を一気に上る最大の難所である。

 YHを出発してすぐに跳坂の上りにさしかかる。下から見上げるとガードレールがはるか頭上に見え、とんでもない坂のように見える。しかし実際に上ってみると見た目ほど急ではなく、第1ヘアピンを回って第2ヘアピンまで休まずに上る。標高はすでに100mを越えているだろう。第2ヘアピンからの眺めがよいので写真を撮る。さっきまでいた岩谷口の集落とその前の砂浜がもうはるか下に小さく見える。素晴らしい眺めだ。苦労して上ってきた甲斐がある。

跳坂より岩谷口の集落を見下ろす

 第2ヘアピンを回って跳坂トンネルを抜け、さらにだらだらと続く坂を上り切ったところが両津市との境だ。両津市は非常に大きな市で、島の面積の3分の1くらいを占めている。とりあえず最大の難所をクリアして安心する。道が下りになり、やがて海府大橋に着く。たいていの車はここで止まって景色を眺めている。谷間をまたいで架けられた橋で、下を見ると目がくらみそうになるほど高い。

海府大橋

 海府大橋を渡り、真更川の集落を過ぎて、標高100m前後を保ちながら小さな川を横切るたびにアップダウンを繰り返す。海府大橋から5kmほど行ったところで今度は大きな下りとなり、一気に海岸まで下る。下り切ったところが北鵜島の集落で、典型的な日本の漁村といった雰囲気である。ここの風景が今回の旅で最も美しいと感じたところであった。海上に点在する大きな岩が実に絵になる風景を作り出している。本当はゆっくり写真でも撮りながら行きたいのだが、間違いなく雨雲が近づいてきているので気が急いでいるのである。雨が降らないうちに両津にたどりつかなければならないので、やむを得ず先を急ぐことにする。

 北鵜島の集落を抜けると間もなく大野亀が見えてくる。大野亀は標高が167mもある一枚岩で、その名の通り亀の背中のように見える。あたり一帯は草原に覆われていて牧歌的な雰囲気である。6月頃には黄色いカンゾウの花が咲き乱れるそうだ。その草原の中をまたヘアピンカーブで上っていき、ようやく大野亀の駐車場に着く。ロッジとキャンプ場がある以外は何もないところである。大野亀は歩いて頂上まで行けるので、時間があれば登ってみたいところだが、先を急ぐのでここもパスしなければならない。

大野亀遠望

 大野亀を過ぎてもさらに上りが続き、また標高100m近くまで上る。途中の道からは二ツ亀が見え隠れする。二ツ亀もその名の通り亀が二匹並んでいるように見える岩である。3kmほどで二ツ亀の標識があり左折する。行き当たったところはキャンプ場になっているが、ここからは二ツ亀は見えない。やはり海岸を散策したりする余裕がないので元の道に戻り、あと3kmほどで弾崎に着く。

 ここは佐渡の最北端にあたるところで弾崎燈台があるが、敷地内には入れない。またすぐ近くには弾野パークがあり、ここでしばらく休憩して天気の様子を見ることにする。もし雨が降ってきたらここでバスを待つつもりだ。

 15分ほど休憩したが、何とか雨はもちそうな様子なのでこのまま両津港まで突っ走ることにする。両津港まであと30kmの標識がある。弾野パークから坂を一気に下り、鷲崎の集落を通り抜ける。ここまで来るとようやくアップダウンの激しい区間は終わり、内海府海岸に出てほぼ海岸線近くを走るようになる。しかし約12km先の黒姫あたりまではまだ小刻みなアップダウンがあり、かなりきつい勾配もある。今日が最終日となった安心感からか、この辺から疲労が一気に出てきて、ちょっとした上りでも大幅にペースが落ちる。

 虫崎へ向かう途中、今日初めて一人のサイクリストとすれ違う。向こうもアップダウンに難儀している様子だ。この辺は車もほとんど通らない寂しいところだけに何となくほっとする。

 やがて虫崎隧道に入る頃、顔に冷たいものが時々ポツリと当たる。ついに降ってきたのか。黒姫に着く頃には弱い霧雨のような感じになったが、幸い雨はそれ以上強くなることはなく、全く濡れることはなかった。黒姫には海の上に架けられた長い黒姫大橋がある。

 黒姫を過ぎると後はほとんど平坦な道となる。残すところあと18kmくらいだ。さらに6kmほど行って北松ヶ崎の集落を過ぎる頃、 遠くに両津市街が小さく見えてくる。また両津湾越しに姫崎まで続く海岸線が長々と見える。本当だったら今日走るはずだったところだ。空を見ると両津方面は晴れているようなので安心する。しかし、この辺から向かい風が強くなってきて全然ペースが上がらない。もう雨の心配がなくなったので15km/hくらいでゆっくりと走る。

 鷲崎から1時間以上ノンストップで走り続けてきたが、荷物の重みのため腰が痛くなり、それ以上走り続けることが困難になってきた。残り10kmを切ったところで久しぶりに休憩をとる。この頃にはもう雨も完全に止んでいた。その後も向かい風が強いため、相変わらずゆっくりしたペースで走る。

 遠くに見えていた両津港がだんだん近づいてくる。残り2kmくらいになってドンデン山に向かう道を右に見て、いよいよ両津市街に入る。1kmくらい手前から急に市街地らしくなってくる感がある。久しぶりに見る街のにぎわいに、つい先ほどまでいた古き日本から急に現実に引き戻されたような気がする。標識に誘導されて12時30分、ようやく両津港フェリーターミナルに到着する。

 フェリーターミナルは帰省客や観光客で大変なにぎわいだ。とりあえず15時10分発のフェリーの切符を買い、昼食を済ませてから最後に加茂湖を見に行く。県道を2キロほど走ると湖岸に出られるところがある。湖の向こうには1000m級の大佐渡山地が堂々と横たわる。島の中にあるとは思えない大きな湖だ。この頃には再び強い日差しが照りつけ、とても暑くなってきた。この風景も見納めとばかりにしばらく景色を眺め、写真を何枚か撮ってからフェリーターミナルに戻る。

加茂湖

 出航30分前から車両の積み込みが始まるので14時30分に駐車場へ移動する。新潟からのフェリーが入港し、自動車の上陸が始まる。よくこれだけ積めるものだと感心するほど乗用車やトラックが次々と出てくる。ようやく全ての車両が下船し終わり、まず自転車とバイクを最初に積み込む。自転車は自分のを入れて3台であった。

 客室に上がると2等船室はまだガラガラの状態だったが、出航時間までには寝る隙間もないくらいぎっしりと埋まってしまう。直江津-小木のフェリーとは比較にならないくらいの混雑ぶりだ。やがて出航を知らせる銅鑼が鳴り、船はゆっくりと岸壁を離れる。

 両津港を出たフェリーは両津湾の中を東海岸に沿って進む。進行方向右手に今日走る予定だった姫崎まで続く東海岸の道がよく見えるが、やはり大変なアップダウンだ。窮屈で寝ることもできない状態で特にすることもなく、17時30分新潟港に入港する。

 上陸準備のため車両甲板に移動すると他のサイクリスト二人と一緒になり話をする。一人は福島から新潟港に車を置いて来たそうだ。自転車はクロスバイクで荷物は全く積んでいない。もう一人は対照的にキャンプ道具を満載したMTBでいかにも長期ツーリング中という感じである。

 船を降りて駐車場で福島のサイクリストと別れ、もう一人のツーリストと新潟駅に向かう。彼は野宿の場所を探しに国道7号線を北上して行った。そして7号線を渡ったすぐ前が新潟駅だ。新潟港から約2.5km、10分足らずの距離である。

 まだ午後6時前なので夜行に乗るまで4時間以上もある。夕食を済ませて午後8時を過ぎると店も閉まり、行くところがなくなる。自転車を分解して輪行袋に収納した後、駅の待合室で長い時間を過ごし、ようやく22時14分発の大阪行き急行「きたぐに」に乗り込む。新潟から乗る人は少ないので並ばなくても余裕で座れる。

 大雨による列車の延着のため、「きたぐに」は6分遅れで新潟駅を発車した。冷房が効き過ぎていて寒く、午前0時を過ぎてもまだ眠れない。結局3時間くらいしか眠れなかった。琵琶湖の北で朝を迎え、午前6時21分京都駅に到着する。普段ならまだ寝ている時間、夜汽車に乗ったときにいつも感じる不思議な感覚にとらわれながら、家路についた。

走行距離 走行時間 平均速度 最高速度 最高地点 最大標高差
54.70km 2:56:49 18.5km/h 48.0km/h 140m
海府大橋手前
140m
片雲の風に誘われて