持続可能なサイクリングを考える

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自転車自転車趣味

最近、持続可能という言葉をよく耳にするようになりました。今風に言えばサステイナブルですね。主に地球環境の分野での話ですが、今のような大量消費社会を続けていけばいずれ持続可能でなくなることは誰の目にも明らかなわけです。

でもこれと同じことはサイクリングの世界にも言えるんですよ。まだ若い人はこんなこと考えたこともないでしょうけど、人間誰しも歳を取ると老化します。人生の残り時間が少なくなってくると、否応なしに「これって持続可能なのか?」と考えざるを得なくなってくるんですよ。

こんなことを考えたのもきっかけがあって、今年の春頃、古くからの自転車の知り合いが突然の病に倒れて長期の入院とリハビリを余儀なくされ、下手をすると二度と自転車に乗れなくなる可能性があったからです。幸い治療がうまく行って今は大きな後遺症もなく元通り自転車に復帰されていますが、それはあくまでも運が良かっただけのこと。一歩間違えば命を失う危険性までありました。自分とほぼ同じ年齢なのでとても他人事とは思えません。本当に55歳を過ぎたらいつ逝ってもおかしくないくらいの心構えがないといけません。

そんなこともあって、自分はいつまで自転車に乗り続けることができるのだろう?と考えるようになりました。せっかく初めた趣味なのだからできれば生涯現役で続けていきたいですよね。その一方で何らかの理由で意欲を失い、自転車をやめてしまう人も少なくありません。まだ動けるのにそれももったいないことです。

サイクリングが持続可能でなくなるには、やはりそれなりの原因というものがあります。これを持続可能にしていくためには若いときとは根本的に考え方を変えていかなければなりません。そこで55歳を過ぎたら気をつけるべき方策についてまとめてみました。

老化とは?

老化というのはひと言で言いますと「昔はできたことができなくなること」を言います。誰しも歳を取ると歩く速度が遅くなった、重い物を持てなくなった、記憶力が低下してすぐ忘れるようになったなどの肉体的精神的な機能低下を経験します。自転車の場合もそれと同じようなことがあって、やはり昔はできたことができなくなっていくのです。

たとえば僕の場合は、昔は100キロ走れましたが今は走れません。昔は平均時速20キロ出せましたが、今は到底できません。つまり完全無欠の貧脚へと変貌を遂げたのです(笑)。できないことが増えるとサイクリングの計画にも制約が多くなります。距離はせいぜい一日50~60キロくらい、それを5~6時間かけてゆっくり走るというしょぼい計画しか立てられなくなります。

老化は肉体的な衰えだけではありません。精神的にも気力が失われていくのです。たとえば昔は重たい輪行袋を担いで数日間の自転車旅行なんてやってましたが、今はそんなしんどいことをする気力がありません。乗鞍のヒルクライム大会に参加してその日のうちに車を運転して帰り、翌日から普通に仕事なんてこともやってましたが、今はそんなしんどいことはとてもできません。

老化するとサイクリングの幅がどんどん狭くなっていってつまらなくなります。そしてやめていくことも少なくありません。

55歳を過ぎると老化が加速する

65歳以上の高齢者に限らず、厳密に言うと35歳くらいから老化は始まっていると言われます。まあ昔は人間五十年だったので間違ってないですね。30代だとまだ気付かない人が多いでしょうけど、30代より40代、40代より50代の方がそのスピードは一層速くなります。

特に経験上言えるのは55歳というのが一つの境界になると思います。50代になっても健康で体力自慢だった人でも、55歳を過ぎると一気に老化が加速して衰えを隠せなくなります。昔はできたことがどんどんできなくなっていきます。何とか現状維持できればまだいい方で、何もしないと急転直下で落ちていきます。こうやってジジイの世界へと突入していくのです。

速さだけを求めていると必ず終わりが来る

今の自転車界、ロードバイク全盛で速く走ることだけに価値を求める傾向が強くあります。これには高価な機材を売りたい業界が仕組んでいる側面もあるのですが、それに踊らされてしまうユーザー側にも問題があります。

ざっと周りを見回しても、景色なんか楽しむ余裕もなくサイコンの画面だけを眺めてパワーが何ワットだの獲得標高が何メートルだのと数字ばかり気にしている人が多いですね。別にそれが悪いわけじゃないですけど、こんなことをやってると確実に終わりが早まることに気付いてますか?

そりゃ数字が上がっているうちはいいんですよ。トレーニングの成果が出て前より進歩していればうれしくなってますます練習にのめり込むのです。でも横ばいになったり、逆に下がっていたりすると途端に面白くなくなります。何で伸びないんだ?と焦りも出てきます。

それはもしかすると老化で限界に達してしまったからかもしれません。これ以上はいくら努力しても伸びない領域に来ているのです。放っておけばあとは低下していく一方です。以前のように速く走れなくなったら興味を失って自転車をやめていく人が少なくありません。それはちょうどプロのスポーツ選手が肉体的衰えを理由に引退するのと同じようなものです。まあプロは肉体的にギリギリのところで戦っているのでそれも仕方がありません。でも自転車は本来年齢に関係なく楽しめる趣味なのですから、それだけでやめてしまうのはあまりにももったいない話ですね。

僕の肌感覚として、今のロードバイク人口のボリュームゾーンは50歳前後だろうと思っています。だいたいみんな45歳くらいで健康とかを気にして始める人が多いんですよね。そういう人って、それまで運動など全くしていなかったことが多いですから、そもそものスタートラインが低いんです。だから最初のうちはめざましく伸びます。こんなに速く走れた、こんなに遠くまで行けたと自分の能力が広がることに感動してますますのめり込んでいくわけです。50代はまだまだ伸びると言われてますから、50歳から始めたとしても伸びる余地は十分にあるでしょう。

でもそれが55歳を過ぎると急速に衰えが来ます。今までよりタイムが遅くなった、長い距離を走るとすぐ疲れるようになったと感じ始めたらそれが老化のサインです。こうなるともう伸びる余地がありませんから、速く走ることだけに価値を求めていた人は興味を失ってやめていきます。サイコンの数字ばかり気にしていたら終わりが早まるというのはそういうことです。

若い時から始めた者の悲しみ

中年になってから自転車を始めた人の多くから聞かれるのは、「もっと若いときからやっていればよかった」という声です。そこには多分に若いときから始めていればもっと伸びる余地があっただろうにという願望が込められているに違いありません。

しかしこれはある意味残酷なことなのです。知らなかった方が幸せとも言えます。自分は27歳の時からロードバイクを始めています。正確に言うとブランクもありましたが10代から始めているのです。そのくらいの頃は自転車が楽しくて暇さえあればあちこち走りまくりました。ビワイチもしたことありますし、ロードレースにも毎年出場していました。初めに言いましたように、昔は100キロ走れたし、平均時速20キロも出せたのです。

でも今はそんなしんどいことはとてもできません。体力が衰えてする気力もなくなるのです。50歳から始めた人なら進化する自分を見続けることができますが、20代から始めた者には退化した自分しか見えないのです。どう頑張っても昔の自分には勝てないことがわかってますから、速く走るということに全く興味がなくなります。だから速く走ることだけに価値を求めるなら、自転車を続ける動機がなくなるのです。

持続可能にするための心得

「より速く」、「より遠くへ」はサイクリスト共通の憧れでしょう。若いときはそれを目指して自己研鑽に励むのも素晴らしいことですが、55歳を過ぎてから同じことをやっているといつか終わりが来るということは上で述べた通りです。55歳を過ぎたら速く走るということは捨てて、価値観をそっくり入れ換えなければなりません。それが生涯にわたって自転車趣味を楽しむための秘訣なのです。

自分なりのテーマを持つ

それまでサイコンの数字ばかり気にしてパフォーマンスを上げることに躍起になっていた人は、老化により伸びなくなると途端に目標を失います。そうなると自転車をやめるか、別の道を選ぶかの二者択一を迫られます。速く走れなくなったら引退と決めている人はきっぱりやめてしまうのもまた人生ですが、趣味として生涯続けたいなら、この際速さは捨てて別の目的を探しましょう。サイコンの数字は見なくていいです。きれいな風景を写真に撮ったり、美味しい物を食べに行くとか、自分にできることから始めればいいのです。

それだけじゃ当たり前すぎてつまらないと思う人は、自分なりのテーマを見つければいいのです。たとえば自分が住んでいる都道府県の全市町村を訪れるとか、峠と名の付く場所に全て登ってみるとか、歴史が好きな人なら城跡や神社仏閣を巡るサイクリングも楽しいでしょう。マニアックなものほどやっている人が少ないので価値が高くなります。さらにそれをブログやSNSで発表することでモチベーションを高められますし、多くの人の共感を得ることもできます。最近流行りのスタンプラリーに参加するのもモチベーションアップになりますし、ある程度脚力に自信のある人ならブルベなど人と競わない長距離ライドに挑戦するのもいいでしょう。

そういうことに夢中になっていると、もう速さなんてどうでもよくなってくるはずです。まさに自分がその状態なので、速さなんて全く気にしていません(笑)。

人と競争しない

55歳を過ぎたら一番やってはいけないことは、人と競争することです。これは別にレースだけとは限りません。たとえばグループライド中に誰かがアタックをかけて飛び出し、バトルが勃発するのはよくあることです。それは秘かにライバル心を燃やしていて、あいつに勝ちたい、自分の脚力を誇示したいと思っているからでしょう。そのためにコソ練したりするわけです(笑)。

しかし競争に勝つために無理なトレーニングを重ねることは体に負担をかけることになり、それが結果的に自転車人生を縮めることになります。55歳を過ぎたら大人げないことはやめておきましょう。トレーニングは体力を維持するのが目的であって、人に勝つためではありません。

何でも他人と比べようとするからしんどくなるのです。評価の基準は他人ではなく自分です。人に勝つことより自分が楽しむことだけを考えましょう。

ひとりで走る

別に仲間と一緒に走るのが悪いと言っているのではありません。ひとりではできないこともあるし、仲間と走る楽しさもよく知っています。ただ人と一緒に走ろうとするとどうしても無理が出てくるのです。走力の合った相棒を見つけるというのは至難の業で、たいがいどちらかがペースを合わせるために無理を強いられます。先に行った仲間に追いつこうと無理な速度で走ったり、待たせちゃいけないと思って必死で坂を登ったりするわけですね。

若いうちならまだいいですが、老化してくると自分のペースで走れないということがストレスになってきます。それを我慢したままでは楽しいはずのサイクリングも苦行になってしまいます。サイクリングは本来ひとりでも楽しめる趣味なのですから、まずは自分のペースで走るということを最優先にしましょう。自分なりのテーマを持つこととも関連しますが、たとえば写真一つ撮るにしても誰かと一緒だと止まりにくいでしょう? 自分だけのサイクリングを楽しむにはひとりで走るのが最高なのです。たまには仲間と一緒に走るのもいいですが、そういう時は走行ペースを考えて仲間をよく選びましょう。

また一緒に走る仲間がいないから自転車をやめるという人も結構います。そういう人はコースから何から何まで他人に任せきりなんでしょうか? でも本来サイクリングは自分で計画し自分で実行する遊びなんですから、最初からひとりで走ることに慣れておけばそんなことにはならないですよ。

がんばらない

体力を落としたくないという気持ちの表れなのでしょうか、寒くても暑くても、雨が降ってても、どんなに忙しくても無理やり時間をひねり出してライドに出かける人っていますよね。最低週に2回とか、月間何キロとか自分にノルマを課してる人も少なくありません。でもサイクリングってそこまでしてするものでしょうか?

そもそも趣味なんですから、気が進まないのにノルマを消化するのは本末転倒です。一度決めたことは何が何でも守り通そうとするのが日本人の悪い習性ですね。どうせ老化したら落ちていくだけなんですからほっときましょう(笑)。必死のパッチでがんばらなくていいんですよ。寒いときや暑いときも体に大きな負担がかかりますから、無理して乗るのは禁物です。季候のいいときだけ、気分が乗ったときだけ走る、というくらいのゆるさが長続きの秘訣ですよ。自分はまさにそうですが(笑)。

心臓に負担をかけない

歳を取ってくると一番怖いのは突然死のリスクです。マラソン大会中の突然死はたびたび耳にしますが、マラソンのような極限的な状況では心臓に過度の負荷がかかり、心室細動などの致命的な症状を引き起こすことがあります。これは心臓に持病がある人だけでなく、どんなに健康そうに見える人でも誰にでも起こりうる可能性があります。

心臓はマジでヤバいです。ひとたび異常が起きれば直接命に関わります。自転車でも心臓に過度の負荷をかけるのは禁物です。最大心拍数は簡易的に(220-年齢)で求められますが、年齢が上がるほど出していい心拍数は下がるということですね。55歳を過ぎたら最大心拍数ギリギリまで追い込むようなハードトレーニングは控えるべきです。できれば心拍計も使って、せいぜい最大心拍数の9割までに抑えるように心がけましょう。

無理なスピードを出さない

貧脚はいくら頑張ってもスピードは出せないのですが(笑)、それでも下り坂なら簡単に時速50キロ出せたりしますよね。辛い登りのご褒美としてダウンヒルは自転車の醍醐味でもありますが、無謀なスピードは絶対に禁物です。落車して大けがしたら、それが原因で二度と自転車に乗れなくなる可能性も大いにあり得ます。

遠心力を甘く見てはいけません。ロードバイクの細いタイヤはロックさせると簡単に滑ります。自分もガードレールに激突しそうになって怖い目に遭ったことが何度もあります。カーブだけでなく、路面に落ちている砂とか溝にタイヤを取られて転倒することもありがちです。これも無理なスピードさえ出さなければ未然に回避できることです。歳を取ってくると反射神経も衰えるので、路面状況に注意して危険の予知が欠かせません。くれぐれもスピードの出し過ぎには注意しましょう。

自転車以外の趣味を持とう

本題からは外れるようですが、実は自転車だけに依存するのは非常に危険です。というのは、もし病気や怪我で体が自由に動かなくなったら何もできなくなってしまうからです。特に自転車を取ったら何も残らないような人は気をつけなければなりません。それはちょうど仕事一筋だった人が定年退職したとたんに生きがいを失って鬱みたいになってしまうのと似ています。

そういった事態に備えてリスク分散しておくことは大切です。ぜひ自転車以外の趣味も持ちましょう。ただ登山、スキー、カヌーなどアウトドアの趣味はいけません。体が動かなくなったら自転車と共倒れしてしまうからです。もう一つはインドアでできる趣味を持つべきです。僕は自転車と並行してピアノを弾いています。これなら雨の日でもできるし、自転車と両立するには最適です。そこから新たな交流も生まれます。

繰り返しますが、自転車しかないような人生は危険ですよ。それがなくなった時のことを想像してみて下さい。

結び

長々と書いてきましたが、言いたいことはサイクリングを持続可能にするには「がんばらない」「人と競争しない」ことが一番大切なんです。もともと趣味なんですから、体を壊してまでするようなことではありません。一時期必死で頑張っていた人ほどやめていくのも早いことを知っています。そんなに頑張らなくても気が向いたときだけふらっと乗ればいいんです。「細く長く」が持続可能の秘訣ですよ。あとは怪我をしないようにくれぐれも気をつけましょう。

片雲の風に誘われて

コメント

  1. 松村洋夫 より:

    「ブログ」いつも楽しませてもらっています。
    ●自己紹介: 昭和18年生まれ,80歳になる男子高齢者。居住地は千葉県西北部。サイクリング・ツーリング趣味は61歳から。主として江戸川・利根川沿いのサイクリングロードを,1~2日おきに60~70km走っている(ソロ)。たまに輪行でヒルクライムや田園地域ツーリングを楽しむ(必ず現地前泊)(ソロ)。現在まで12万kmほど走行,大体年6000~7000km走行。ロード2台体制。カメラも趣味(撮影+機材いじり)
    ●小生が考える「持続可能」な条件:①自転車に乗れる最低限の体力・技能が維持されていること,②乗っていて(無条件に)気分がいい,楽しいかどうか。①は当然の条件。問題は②。②は「心の問題」であり,個人によって千差万別。
    ●明確な目的をもって自転車を始めた人ほど「持続・継続」の問題にぶち当たる確率が高くなるのではないか。小生は,たまたま乗ってみたら,楽しかった,気分が良かったから今まで続いている。

  2. SORA より:

    はじめまして。
    80歳でロードバイクに乗れるということ自体、すごいですね。しかも61歳から?
    自分はその年齢にもなってませんが、はるかにしょぼい体力しか持っていません。80歳まで乗れる自信もありません。

    > ②乗っていて(無条件に)気分がいい,楽しいかどうか。
    確かにこれは難しいですね。自分もですが、結構飽きが来るのでそれをどうやって克服するかが課題です。